第14話
勇者に刑を伝えた一週間後、条件付きで外出禁止が解けた俺は近衛騎士団長のレーナと軍最高顧問であるルドヴィとお目付け役として宰相マークスの秘書官バロネットと数人の兵士を連れ立って馬車に揺られ王都の南を進んでいた。
向かっているのは元魔導士部隊の部隊長で現在も国一番の魔法使いと呼ばれる賢者オグエノ・シュプレンガー公爵の領地だ。王都からシュプレンガー領都までは馬車で4日ほどかかる。俺単独で走って行った方が断然早いのだが許してもらえるはずもないし今回は俺一人で行っても門前払いを食らう可能性があるので仕方ない。
今回オグエノへ会いに行く目的はいくつかあるが一番の目的は勇者について相談したかったからだ。俺は勇者をいまだ牢で幽閉し、刑を執行するのに躊躇っていた。
やはり勇者の持つ祝福が気になるのだ。
祝福とは非常に貴重で価値がある。正しく使えば多大な利益をもたらす可能性が高い。それにやはり前国王である親父の無念、そして俺自身の無念を晴らしたい。勇者がどんな祝福を持っているか口を割らないが今は亡き母、エレナの死に関わった奴らを探し出すことができる可能性だってある。
オグエノはスキルを使い勇者が祝福を持つことを見破ることができたし、魔法やスキルに関して造詣が深い。いろいろ話を聞いてみたいと思ったためだ。
「それにしても、シュプレンガー卿にも困ったものですよ。国王陛下の命に従わないとは不敬にもほどがあります」
時折揺れる馬車の中で相席するバロネットが顔を顰める。
「まぁ、命令ってほどじゃないし、いいよ。気晴らしに旅ができるわけだし」
勇者を鑑定することを承諾したオグエノが久しぶりに登城した際に鑑定後勇者について聞きたいと面会を要請したがすでに城にはいなかった。鑑定が終わってすぐに帰路についていた。それならと早馬で城に戻ってくるよう綴った手紙を帰路の途中のオグエノに送らせたのだがその返事が「めんどくさい。疲れたから帰る」だった。
めちゃくちゃである。だいたい公爵と云えど城に来たらまず一番に国王へ挨拶しろよ!とも思うのだがあの爺さんなら仕方がない。偏屈で頑固で変わり者、というのがオグエノ・シュプレンガーという人物なのだ。
相談したいことがあるから会いたいと後日改めて連絡したら(普通、国王が会いたいって言ったら臣下が城までくるものだが)忙しいからお前が来いとの事だったのでこうしてシュプレンガー領を目指しているわけだ。まぁ、たまにはゆっくり旅するのも悪くないしそれに爺さんの中では俺は国王じゃなくて今でも弟子扱いだからなぁ。
平原を抜け小さな森を走る道に差し掛かるところで馬車が止まった。魔物が出たとの報告を受けた。
「ちょっ、陛下!」
バロネットが止めるも魔物と聞いて馬車から飛び出した。
「陛下、危険です。馬車に戻って下さい」
レーネが馬上から注意してくるが魔物を確認するとCランクのブラッドウルフが10匹ちょっと群れているだけだった。心配性だなぁ。ルドヴィは欠伸している。お前はもうちょっと緊張感持てよ。
ブラッドウルフは角の生えた大型の狼のような魔物で動きが早く面倒なことに群れで行動するので結構厄介な魔物だ。
少し前の方で兵士4名とブラッドウルフ達
がにらみ合い、牽制しあっている。
まぁ、大丈夫だと思うけど兵士にけが人が出ないともかぎらないし。
俺は魔力を両手に込め地面に手を突き「アースヘッジ」と唱えた。
瞬時に魔力は地を伝いブラッドウルフ個々の真下で地面と混ざり合い強固な無数の棘となって下から一斉に貫く。
何の抵抗もできず体を貫かれてブラッドウルフの群れは全滅した。
「若、お見事。剣ではまだまだ負けませんが魔法を使う実戦形式ですと儂も少々厳しいでしょうな」
がははと笑いながらルドビィが言った。それにつられて兵士たちもお見事!とか、さすがです!とか褒めてくれるのだがレーネからは説教を食らった。
兵士たちにブラッドウルフの処理を任せて馬車に戻るとバロネットにも怒られた。
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