「青い夢の君と」 3人声劇台本

深海リアナ(ふかみ りあな)

「青い夢の君と」

★出来るだけ上演前に


プロフィールお読み頂けると嬉しいです。



〔登場人物〕 男1名 女2名


[所要時間:約 15 分 ]



稚空(凪)♂・・・ちあき(碧井 凪) 20~30代。

ペンネーム 「碧井 凪(あおいなぎ)」

で女性として活動する作家。

幼い頃から純粋で繊細な性格。


亜衣紗♀・・・稚空の幼馴染の彼女。

稚空と一緒に住んでいる。


ユメ♀ ・・・年齢不詳。大きな瞳と白い

ワンピースを着た謎の女性。

少女と女性の間のような

不思議な雰囲気も持っている。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


稚空(凪)

「(N)生温い風に胸を掴まれたような、

そんな静かすぎる穏やかな午後。

もくもくと上に伸びてく真っ白な雲と

青空に蝉の声が響いていた。


夏の始まりはいつも不思議で、

何かが起こりそうな予感がした。」


亜衣紗

「稚空!どう?執筆の方は進んだ?」


稚空(凪)

「亜衣紗か。いいや、全然。」


亜衣紗

「不調ね、最近。疲れてる?」


稚空(凪)

「いや・・・んー・・・・・・どうかな・・・。」


亜衣紗

「歯切れ悪いなぁ。

コーヒーでも入れようか?」


稚空(凪)

「うん・・・頼むわ。」


亜衣紗

「あいよ!ちょっと一服してさ、

それからでもいいじゃないの!」


稚空(凪)

「・・亜衣紗!」


亜衣紗

「ん?」


稚空(凪)

「・・・・・・ごめんな、いつも。」


亜衣紗

「ふふっ、ばぁか!もう慣れっこ!」


稚空(凪)

「(N)亜衣紗は同級生の幼馴染で

今は俺の彼女。長年一緒にいるからか

俺の事は何でもお見通し。

彼女には 本当に世話になっているし、

きっとこの先も俺は彼女に敵わない。

ずっと一緒にいるのだろうと

俺も彼女も心のどこかで分かっていた。」



亜衣紗

「ねぇ稚空。私たちってさ、

一緒に住み始めてもうすぐ5年経つって

知ってた?」


稚空(凪)

「ああ・・・、

もうそんなに経つのか。早いな。」


亜衣紗

「でさ、その・・・稚空はこれからの事・・・」


稚空(凪)

「え?何だって?」


亜衣紗

「あ、ううん!何でもない!

(コーヒーを渡す)はい。」


稚空(凪)

「ありがとう。」


亜衣紗

「大分、煮詰まってるみたいね。」


稚空(凪)

「んー・・・。

いつも頭の中では物語が動いてるんだよ。

ちゃんとエンドに向かって

進んでいくのに、俺の文字の中は

何処かリアリティに欠けてて、

綺麗に飾り立ててしまうから

リアルを無視してる。 分かるんだよ。」


亜衣紗

「でも私、稚空の世界観好きだよ。

綺麗で繊細で、

心をそのまま映したような文章も。

それが作家 " 碧井 凪(あおい なぎ) " の

強みじゃない!」


稚空(凪)

「亜衣紗・・・。お前だけだよ、

そんな風に言ってくれるの。」


亜衣紗

「だって私、

碧井 凪の1番のファンだもん!」


稚空(凪)

「知ってる。

だから俺はこうやって続けてられるんだ。

もっと・・・その気持ちに答えないとな。」


亜衣紗

「無理して身体壊しちゃ・・・やだよ?」


稚空(凪)

「あぁ。・・・・・・・・・ごめん。

ちょっと散歩してくるわ。」


亜衣紗

「え?うん・・・。

・・・1人・・・の方がいいよね やっぱ。」


稚空(凪)

「・・・ごめんな。」


亜衣紗

「ううん。行ってらっしゃい。」



稚空(凪)

「(N)なんとなく、虚無感に駆られていた。

好きなことを仕事にして、

良き理解者もいて、そこそこ自分の

生み出す世界観を好きだと

言ってくれる人々もいる。

けれど心のどこかで何かが足りなくて、

心の底では泣いていた。

稚空でいることに、どこか疲れていた。


揺れるアスファルトが

ジリジリ焼けるにおい。

何かを待つように、

真昼の喧騒の中を1人歩き続けた。」



ユメ

「お兄さん、危ないよ?」


稚空(凪)

「え?」


「(N)ふと気づいて前を見ると、

車通りの多い赤信号の横断歩道を

無意識に渡ろうとしていた。」


稚空(凪)

「あ・・・すいません。

ありがとうございます。」


ユメ

「轢かれるとこだったよ?

ボーッとして、大丈夫?」


稚空(凪)

「えぇ、ちょっと考え事をしてたもので。」


ユメ

「ふーん。」


稚空(凪)

「(N)黒くて大きい、

まるで猫のような目がこちらを

覗き込んだ。

白いワンピースがよく映える

華奢でしなやかな腕を

後ろ手に組む少女は、

どこか現実味を感じない

人形のようだった。」


ユメ

「お兄さん、名前なんて言うの?」


稚空(凪)

「ち・・・あ、凪って言うんだ。君は?」


ユメ

「ユメだよ!凪って・・・女の子みたいね!」


稚空(凪)

「よく言われる。ユメちゃんはさ・・・」


ユメ

「ユメ。」


稚空(凪)

「え・・・」


ユメ

「ユメって呼んで。ユメちゃんって・・・

子供みたいで嫌い。・・・ね、凪。」


稚空(凪)

「ユ・・・ユメ・・・はさ、

どこから来たの?この辺に住んでるの?」


ユメ

「·····内緒。ねぇそれよりさ、ついてきてよ!」


稚空(凪)

「どこに・・・」


ユメ

「いいとこ!」


稚空(凪)

「(N)目を閉じてと言われ、

彼女に導かれるまま

辿り着いたそこは

人1人いない静かな海だった。」


「そんなばかな・・・。

たった数分の場所に、

海なんかなかったはず。ここは一体・・・。」


ユメ

「あなたが来たがってた場所よ。ね、凪。

聴こえる?波の音。

離れたかったんでしょう?

騒がしい人の声から。

当たり前の毎日から。」


稚空(凪)

「・・・君は・・・。」


ユメ

「私はね、あなたが作り出した幻。

私は誰よりもあなたを知ってるの。

本当は平和すぎる毎日に

心が乾いてしまって

死にたいくらい退屈な事も、

人間の愚かさに嘆いていることも。」


稚空(凪)

「・・・・・・なんで・・・。」


ユメ

「疲れていたんでしょう?・・・凪。

私があなたを抱き締めてあげる。」


(凪を抱きしめる、ユメ。)



稚空(凪)

「・・・っ・・・・・・(泣く)」


ユメ

「溢れるものに蓋をしないで、

泣いてしまえばいいのよ。

辛かったね。

自分でも分からない乾きに

誰も気づいてくれなかった。

心をどこへやったらいいか

分からなかったのよね。」


稚空(凪)

「時々、

自分がどこへ向かって歩いているのか

わからなくなるんだ。

『碧井 凪』は世間では女性だ。

こんな女々しい男が

その本人だって知ったらきっと

皆受け入れてくれない。

ずっとそうだったし、今でも怖いんだ。

受け入れてくれなかった他人を恨むことで

自分を守ってきたけれど、

同時に段々、綺麗なものが壊れていく。

黒いうねりに飲み込まれて自分が変わって

いくようで・・・。書けないんだ。 」


ユメ

「伝わってくるよ。あなたの虚無感と焦燥感。

1番身近にいる大切な人にも、なんて伝え

たらいいか分からない気持ち。」


稚空(凪)

「亜衣紗には悪いと思ってる。

俺は自分のことばっかりだ。最近何度も

言葉を飲み込んでる事も知っていながら

俺は・・・・。

・・・不思議だな、

初めて会ったばかりの君に、

なんでこんな話してしまうんだろう。

ごめんね。」


ユメ

「大丈夫、私はわかってるから。」


稚空(凪)

「ユメに会えて良かった・・・。」


ユメ

「ねぇ凪。波の音を聴いて?

あなたの世界はここにある。

広く壮大で、謎に満ちた青の世界。

それがあなたの心よ。

誰が分からなくても

私だけはあなたを知ってる。 」


稚空(凪)

「深い青。波が、鳴り止まない・・・。

何もかもが綺麗で果てがない。

それが僕の心?」

「・・・ここだ。僕が来たかったのは。」


ユメ

「わかったのね。」


稚空(凪)

「幻想を形にしたかった。昔から孤独で、

それを埋める綺麗な世界は、

生きるために必要なものだった。

人と違う感性を持て余して、

理解されないことも沢山あった。

けれど・・・それが自分自身で

僕はこれを選んだんだ。」


ユメ

「リアルな世界に負けないで。

あなたはあなたの道を信じて欲しいの。

あなたのままでいいのよ。」


稚空(凪)

「思い出したよ全部。君はあの日寂しかった

僕が生み出した愛しい人だ。」


ユメ

「やっと・・・、思い出したくれたね、

・・・稚空。」


稚空(凪)

「忘れててごめん。

もう二度と忘れないから。」


ユメ

「ねぇ、キスしてくれる?」


稚空(凪)

「え・・・・。」


ユメ

「大丈夫、これは夢よ。

私、ここでずっとあなたを待ってた。

けれど分かったの。

あなたには帰るべき場所がある。」


稚空(凪)

「ユメ・・・。」


ユメ

「これは最初で最後のおまじない。

あなたが私に命をくれたから

私があなたをここから帰すの。

私はあなたの中に戻るだけ。

ずっと、一緒よ。」


稚空(凪)

「うん・・・ずっと、一緒だ。」


ユメ

「稚空・・・。」


稚空(凪)

「・・・ユメ。」




ー静かに別れのキス(間)ー

(表現 難しいので"間"で表現して下さい。)





稚空(凪)

「さようなら。」



ユメ

「幸せになってね。」



(少しの間)



亜衣紗

「・・・き!ちあき!!稚空ってば!!

目を開けてよ、ねぇ稚空ぃ!!!!」


稚空(凪)

「あ・・・いさ・・・?」


亜衣紗

「あ・・・あぁ・・・っ、稚空ぃぃ!!!!」


稚空(凪)

「・・・泣いてるのか?」


亜衣紗

「当たり前でしょ!!

散歩中に車なんかに轢かれて!

死んじゃうかと思ったんだからぁ!!

ばかぁ!!!」


稚空(凪)

「車に?・・・あ、そっかぁ・・・。」


亜衣紗

「ぼーっとしてたんでしょ!

そんなに根詰めてるならそう言ってよ!!

私、邪魔なら寂しくても少しくらい

1人で頑張れるんだから!

お願いだから・・・

私の前から居なくならないでよ。」


稚空(凪)

「亜衣紗・・・ごめん。僕は・・・。」


亜衣紗

「僕!?どうしよう、

稚空が・・・稚空が変だ・・・

ナースコールナースコール!!」


稚空(凪)

「あ、うそうそ!からかっただけだって!

俺はどこも悪くないから!」



亜衣紗

「あのねぇ!言っていい冗談と

悪い冗談ってものがあるでしょう!?」


稚空(凪)

「あははは、ごめんごめん!

・・・うん、やっぱりお前が1番だな。」


亜衣紗

「なにそれ。」


稚空(凪)

「いや。それより、なぁ亜衣紗。」


亜衣紗

「なに?」


稚空(凪)

「そろそろ・・・結婚しよっか。」


亜衣紗

「え・・・うそ・・・ふっ・・・ふぇぇ・・・!!」


稚空(凪)

「泣くなよ。・・・待たせてごめんな。」


亜衣紗

「うぁぁぁん!何でこんなとこで

プロポーズすんのよぉぉ!!

嬉しいよぉぉ!!

ばかぁぁーーーーっ!!!!」


稚空(凪)

「あはははは!」


亜衣紗

「待ってたんだから!」


稚空(凪)

「ごめん、知ってる。」


亜衣紗

「もおーーーーーーーーっ!!!!」


稚空(凪)

「あはははは、ごめんごめん!」

「亜衣紗には、いつか話すよ、

今日のこと。」


亜衣紗

「え?なに?」


稚空(凪)

「いや、なんでもないよ。・・・いつかね。

それよりさ、聞いてくれるか?

書けそうだよ・・・新しい物語が。

タイトルは、そうだな・・・。

" 青い夢の君と "」




[完]


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「青い夢の君と」 3人声劇台本 深海リアナ(ふかみ りあな) @ria-ohgami

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