第3話




「らら様はいわゆる魔法をご存知ですか?」


 ドドド姫は真剣な面持ちでそう言った。


 魔法。もちろん知っている。ファンタジーの物語とかで出てくるやつだ。


「はい、知ってます。よく物語に出てきますから。それが何か?」


 僕がそう答えるとドドド姫は少し微笑んでゆっくり言った。


「ここでは、魔法の研究をしているのです」


 …………は? 魔法の研究? 魔法?


 僕は驚きで言葉が出てこなかった。それに構わずドドド姫は話を続ける。


「魔法、と言ってどんなものを想像しますか? ここでの魔法は……噛み砕いて言うならば、ものを動かすことができる力、でしょうか。今ここにいる者たちは皆魔法が使えます」


 …………訳が、分からない。目覚めてから本当に分からないことばかりだ。

 ここは本当に五百年後の日本なのか……? 異世界とかですらなく?


「ちょっ、ちょっと待ってください。 僕が覚えている日本には魔法なんてものなかった。 本当にここは五百年後の日本なんですか!?」


 ドドド姫は困ったような笑みを浮かべる。僕はその笑顔に圧を感じ、黙る。


「順を追って説明させていただきます。……話は少し飛びますが、初め、私がらら様にご協力をお願いしたのを覚えていますか?」


「…………はい。覚えてます」


 僕は頷く。


「それは、らら様が魔法を使う力に長けているから……いえ、調べたところによるとらら様は人類で初めに魔法が使えるようになった、かつ一番の魔力量を誇る最強のお方だったからです」


 ドドド姫はまたも訳の分からない話をし出す。


「──ッあ」


 僕が喋ろうとすると、ドドド姫はそれを遮るように言う。


「どうか、落ち着いてください。もう少し説明をさせていただきたいことがあるのです」


 僕は出かけた言葉を引っ込める。そんな言い方をされたらそうするしかなかった。


「……ありがとうございます。話を続けますね。…………どうやら、五百年前の科学者たちは、魔力を解明し、それを人に定着させようと、実験をしていたのようなのです」


 ……──ッ!


 ドドド姫の話を聞いた途端頭痛がした。

 さっき部屋で感じた痛みと同じだ。

 そして、脳内に映像が流れる。それはおそらく僕の記憶。白い服を着た大人に囲まれて、僕は──


 ──パンッ!


 手を叩く音がした。ドドド姫だった。

 その音で僕は現実に引き戻される。


「申し訳ありませんが、こちらにも都合がありますので話を続けさせていただきます」


 ドドド姫は心底申し訳なさそうに言う。


「……科学者たちがらら様に魔力を定着させた方法は私どもの力足らずでまだ分かっておりません。ですが、今ここにいる者たちが全員魔法が使える理由は判明しています。それはらら様、あなた様の血です」


 ドドド姫は僕の心臓を指さしてそう言った。


「らら様の血は一部の人間に注射されたのでしょう。私たちはその子孫。だから魔法が使える。と、私どもはそう考えております。…………私の伝えたいことは概ねこれで終わりです。申し訳ございません、一方的に話してしまったことをお詫び致します」


 そう言ってドドド姫は頭を下げた。


 僕は一国のお姫様に頭を下げさせてしまっていることに罪悪感を覚える。


「あ、頭を上げてください……! 僕の理解が追いついていないだけなので……」


 僕がそう言うとドドド姫は顔を上げて笑顔を作った。

 おそらくもっと言いたいことがあったのに、僕を気遣って大分端折って説明したのだろう。

 それはなんだか少し、申し訳なかった。


 ドドド姫はそんな僕を気遣ってか、笑顔で手を握ってくれる。


「今日はお疲れになられたでしょう。ゆっくりお休みください。お部屋にお連れしますね。明日は……そうですね、魔法を見てみますか?」


 ドドド姫は優しくそう言った。


「はい、ではゆっくり休むことにします。魔法も楽しみにしてますね」


 ドドド姫の優しさで少し落ち着けた気がする。


 笑顔で僕の手を握りしめるドドド姫に少しドキッとしてしまったのはきっと気のせいだろう。



   ***



「はぁぁぁぁ……」


 僕は今、ベッドに寝転んでいる。


 今日は目が覚めてからトントン拍子で話が進んでいって、なんだか落ち着かない一日だった。


 魔法だのなんだのまるでファンタジー世界かのような話も出てくるし……。それに、まだ少し頭も痛い。


「はぁぁぁぁぁぁぁ……」


 僕は再びため息をつく。


 ドドド姫……よく、わかんない人だったな。

 自分勝手な人だと思えば優しくしてくれたり、やっぱりなんだか無邪気だったり。

 真剣な顔で話をしたと思えば笑顔で手を握りしめてきたり。


 笑顔……美人さんだったなぁ……。

 あれでも一国の姫なんだよな。あんなんでいいのか姫って……。


 ……ドドド姫のことを考えるとなんだか笑みが溢れてくる。

 この分からないことだらけの中で唯一まともに会話したのはドドド姫だけだし、落ち着くのかもしれない。


 ……明日、魔法見せてくれるんだっけ。

 楽しみだな。


 そんなことを考えながら僕は笑顔で眠りについた。

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日本の成れの果て とうか @IAk

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