第82話 戦乱

魔都シュッツァガートにようやく到着した俺達が最初に見たものは、荒れ果てた街だった。超遠距離攻撃による絨毯爆撃。普通であれば魔法使いがバリアを使って防ぐものだ。それも魔都シュッツァガートならなおさらだ。だが魔法使いの街であるこの街は以前と比べて別物になっていた。


 そこら中の建物はすべて壊され、町の中央に立っていた大学は中央の塔が折れ、半壊している。何があったというのだろうか?


 俺たちは街に入り、事情を聞くことにした。すると見たことのある顔が目に入った。俺が前に人質にした大学の生徒だった。服はボロボロになっているが、傷はないようだ。治したのか、怪我が元からなかったのか、いずれにせよ幸いだ。


「よう、元気か」


 俺の姿を見るなり、涙をこぼし泣きついてきた。よほどのことがあったのだろうか?


「この惨状は……どうしてこうなったんだ?」


 嗚咽まじりに女は答えた。


「私もわかりません。気づいたら爆撃の嵐で……。バリアでなんとか防いでいたんですが、物量には勝てず……。ですがフレインさんが三日三晩寝ずに持ちこたえてくれたんです」


「魔法使いが?」


 ですが魔力が底をついてしまい倒れてしまったんです……。三日三晩一人でこの街全体にバリアを貼り続けましたからね……」


「そうか……フレインは今どこにいる?」


「分かりません……バリアが解けて空から無数の兵士が降り立ったところまでは覚えているのですが……それからフレインさんの消息は掴めていません」


「そうか……いなくなってから何日立っている?」


「今日でちょうど一週間です……」


「そうか、よくここまで頑張ったな」


「はい……」


 涙を流す女の頭をなで、俺達は大学にあるフレインの研究室に向かった。




「荒れ放題だな」


 研究室はあらされた形跡があった。誰かがフレインを連れ去った……のか?


「資料は全部無くなってますね。誰かの仕業でしょうか?」


「フレイン目当てだった可能性が高いな。だが誰がやったか分からない」


 崩れた瓦礫を避けて奥に進むと懐かしい机がそこにあった。原型をとどめている。

「なにかあるとすればここだな」


 俺は前と同じように引き出しに罠はずしを使った。するとそこには紙切れに書かれた『助けて』という血で書いた文字があった。


「言われなくても助けてやるってのに律儀なやつだな。せめて敵の場所くらい書けってんだ。僧侶、助けて以外の情報をこれから読み取れるか?」


「よほど必死だったのでしょう、魔術の痕跡もないので裏コード的なものもないですね」


「どうしたものか……」


 それから俺たちは街に戻り聞き込みを始めた。だが一切フレインに関する情報は入ってこなかった。そして敵の情報までも。どこから攻撃されて、誰に攻撃されたか分からないと。


「助けようにもなあ、場所が分からねえ」


「そうですね、用意周到にフレインさんを狙っての犯行のように思えますね」


「助けないって選択肢はないんですね、モルさんには」


「当たり前だろ、英雄だぞ、元」


 俺の発言にアスティはただ微笑んでいた。何が嬉しいのだろうか。


「そういえば気になる点があるのですが……」


 僧侶が顎に手を当て、口を開いた。


「どうした?」


「街の聞き込みでわかったんですが、隣国の情勢がここ五日間のうちに変わっています。もともと魔法使いがおらず、現代兵器で戦う【シュバイン】に魔法使いが現れたと。そしてシュバインの敵国の【オーラズ国】との長い戦いの膠着が解かれたと聞いています」


「……どういう意味だ?」


「あまりにも日時が似ていませんか? いなくなった日から二日経って、シュバインに魔法使いが現れ、そして圧倒している。魔法使いさんが関わってる匂いがしませんか?」


「確かにそれなら辻褄が合うな。だがなぜ魔法使いがシュバインに奪われたとはいえ、力を貸すんだ?」


「弱みでも握られてるのかもしれないですね……」


「あいつ弱みばっかだからなあ」


「だからほっとけないんですか?」


「まあ一番長い付き合いだからな、色々あるんだよ」


「その色々ある話聞きたいです!」


「フレインを救ってからな、アスティ」


「えー」


「とりあえず向かう先は決まったな、シュバイン国とオーラズ国が戦っている前線だ。そこにフレインもいるかもしれない」


「自ら前線に行くとは、死ぬようなものですよ?」


「まあそういうのには慣れてるからな、任せろ」


「そうですね」


 そう言うと僧侶は笑っていた。


「俺の夢はな、フレインも含んだ四人で旅することなんだよ」


「叶うといいですね」


「俺が叶わすんだよ」


 こうして俺たちはシュバイン国とオーラズ国が戦っている前線へ向けて旅立った。






「閣下、ご報告が」


「何だ、食事中に。後にしろ」


「それがフレインに関わることなので」


「……手短に話せ」


「先代魔王、ダイスコンスティン=デル=アスモーティとその一行がフレインの動向を探っているようです」


「元魔王が? なぜ?」


「もともと同じパーティだったらしく。全盛期の実力は今のフレインと互角、いや、それ以上です。万が一があってはいけません」


「そうだな。殺れそうか?」


「はい、今は弱体化しているので容易かと。他の二人はシャルシャトム=フィーナとウバレイン・モルダーというものです」


「シャルシャトム……エルフか。また厄介な回復役だな。最初に殺せ」


「はい」


「そしてそのウバレインというやつはなんだ? ただの男か?」


「父親は優秀な男でしたが、その息子は大したことはないらしいですよ」


「らしい?」


「ダルツ国に潜伏しているスパイに素性を調べさせましたが、いい加減なことばかり書いてありました。元魔王を倒した、元国王を倒したなど、信憑性に欠けるものばかりでした。ウバレインはただの勇者です」


「そうか、じゃあ頼んだぞ。できるだけ危険分子は排除するんだ。シャルシャトムとダイスコンスティン=デル=アスモーティは覚醒されると面倒だからな。寝込みを襲え」


「はい、手はず通りに」


 こうして【シュバイン】の夜はふけていった。

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魔王を倒したら殺人罪で死刑になった 四秋 @shiaki

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