第6話 一日ご主人様体験 後半
用意してくれた昼食を食べ終えた俺は、リビングにて眞銀を待っていた。
昔から眞銀は家事スキルが高く、掃除洗濯炊事と家事はお手の物。
今も食器をテンポ良く洗っていた。
そんな後ろ姿を見ている訳だが、やはりメイドというものはいつみても素晴らしい。
何をしても絵になるというか、見ていて全く飽きる気配がしない。
いつか誰かに着てもらいたいと、奮発しておいて本当に良かった。
「じ、じろじろ見ないでよ……」
「眞銀、今日のお前は可愛いぞ!」
「なっ!?」
勢いよく親指を立ててサムズアップ。
俺の全力の気持ちを眞銀に伝えてると、眞銀は紅潮した顔で睨みつけてきた。
「そ、それでご主人様、次は何をされますか……?」
洗い物が終わったうちのメイドは赤面したままこちらへと戻ってきた。
「そうだな、少し汗をかいちゃったから……風呂でも、入れてもらおうかな?」
「お、お風呂!?」
そのワード聞いた眞銀は、大声で反応する。
よしよし、その反応が見たかったんだ。
「お、お風呂など……一日入らなくてもよろしいのでは?」
「おいおいメイドよ、ご主人様が不潔なのは嫌だろう? それに見てくれよこの腕を?」
「うっ……わ、分かりました」
俺は眞銀によく見えるように右腕を掲げる。
すると狙い通り眞銀は心苦しい顔を見せた。
ふふ、この右腕を見せつけるだけで眞銀は平身低頭、気分は正に水戸の光圀公だ。
「それじゃあ……風呂で待っているぞ」
最後に背中でそういい、俺は風呂場へと向かうのだった。
◇ ◇ ◇
浴室で全裸待機、唯一の装備は右腕の包帯のみ。
俺は一人心を踊らせて
それにしてもこの右腕、本当に役に立つな。
別に痛みなど全く無いのだが、このまま来週まで引っ張ってもバレそうにない。
マジでやろうか悩みどころだ。
「お、お待たせしました……ご主人様」
「お……おぉ」
その姿を見て、俺は言葉が出なかった。
ただでさえ短いスカートを履いているのに、水場での作業の為履き物を全て脱いで生足での登場。
全体的に前より露出が増し、若干目のやり場に困る。
メイド好きな俺からすればメイド要素が減るので残念だが、思春期真っ盛りの男子高校生でもある俺には寧ろご馳走であった。
しかし羞恥度MAXによる紅潮した姿と現実離れした可愛さに、眞銀と分かっていても少し緊張してしまい、口が上手く動かない。
これが彼女いない歴=年齢の弊害か。
「そ、それじゃあ……よろしく頼む」
「は……い」
その羞恥度が伝わってきてしまう程顔を赤くしている眞銀は、泣きそうな顔でボディーソープの容器に手を伸ばす。
くちゅくちゅと手で泡を立てる音が浴室に反響する。
掌を滑るボディーソープの音が最早アレの音にしか聞こえない。
あれ、ここってもしかしてそういうお店なのでは?
そんな状況に少しずつ変な気分になってしまい、気が付くと体は勝手に前傾姿勢になっていた。
「そ、それじゃあ失礼します……」
ペタリとその小さな掌を俺の背中に張り付ける。
柔らかな掌と人肌に温まったボディーソープが何ともいえない気持ち良さな反面、慣れていない感触に思わず腰が引けてしまう。
何とも情けない姿である。
しかしそんな俺に、眞銀は予想外な一言を放った。
「ご、ご主人様の背中、とっても……大きいですね?」
「は……はぁ!?」
その言葉に俺は思わず大声を上げてしまう。
確かにお風呂場での定番といえば定番だが、まさか眞銀がそんな事を口にするとは……。
まさか眞銀……俺に気があるのか!?
いや待て、いくら超絶美少女メイドといえど相手はあの眞銀だ。
冷静になれ俺、大丈夫、俺は自分の意思で考えることの出来る知能ある生物だ。
そんじょそこいらの犬猫や猿と一緒ではない。
しかし眞銀の気持ちも汲んではやりたい。
据え膳食わぬはという奴だ。
それに女の子から誘われているというのに断るのは紳士じゃない。
そうだ、紳士じゃない!
え、『人を騙しておいて何が紳士か』だって?
そんなもの……バレなきゃいいんですよ?
「眞銀、俺もお前のことが……」
好きだ、そう伝えるべく体を後ろに向ける。
するとそこには『ぷしゅー』と音がしそうな程、オーバーヒートしている
その足取りは非常に危なげで、今にも倒れそうだ。
するとそんな悪い予感が的中。
眞銀は掌から滴るボディーソープで思い切り足を滑らせた。
「あっ……」
「危ねぇ!」
宙を舞う眞銀は、そのまま頭から浴室のタイルに激突しそうになる。
それを見ていたはずの俺だが、気が付くといつの間にか眞銀の肩を抱いていた。
どうやら俺の反応速度も捨てたもんじゃないな。
突然自身の落下が止まる事に驚く眞銀は、目の前の俺をぱちくりしながら見つめていた。
そんな眞銀の表情が何処かとても可愛らしく見えてしまう。
「大丈夫か?」
「う、うん……ありがとう」
恥ずかしさの余り、眞銀は紅潮し目を逸らす。
腕の中にすっぽりと嵌るその小柄な体格と可憐さに、俺の心臓が大きく跳ねる。
あれ、こいつめちゃめちゃ可愛くね?
今なら……行けるよな?
第六感がそう囁いているように思えた俺は、眞銀を抱く腕を強く握り、ゆっくりと柔らかそうなその口元に顔を近付ける。
お母さん、産んでくれてありがとう。
俺、今日で男になります。
「んむぅ〜」
「……ねぇ、翔?」
あと少しという所で眞銀が俺の名を呼ぶ。
直前になって恥ずかしくなったのだろうか?
やれやれ、愛い奴め。
そんな上機嫌な俺に、眞銀はドスの効いた低音で話を続けた。
「どうしてその右腕で、私を支えられるの?」
「え……あっ!?」
腕の中に抱かれる眞銀は、突然ハイライトの消えた瞳で自信をがっしりと抱く俺の右腕を見つめる。
その一言に、全身の汗腺からぶわりと汗が噴き出してきた。
「え……と、あの……」
「――あ、そうだご主人様、ちょっと待ってて下さいね?」
コロコロと表情を変える眞銀は、今度は百点満点の営業スマイルで浴室を出て行く。
その笑顔を見た途端、俺の第六感が囁く。
――逃げろと。
「お待たせしましたご主人様、さあ……続けましょう?」
「眞銀さん、そのタワシは何!? それで何を洗うつもり!?」
「決まっているじゃないですか……あ、大丈夫ですよご主人様、私が全身隈なく洗ってあげますので――」
「眞銀さんその手をやめて! その怖い瞳で俺を見ないでえぇぇ!?」
その日俺は誓った。
もう嘘を吐くのは止めると――。
結論から言うと、最近幼馴染みがデレるとめちゃくちゃ可愛いです スーさん @suesanboirudo
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