第5話 魔王の娘

魔王には娘がいる。魔族と人間のハーフである娘。母親は娘を産み落とすと同時に力尽きて死んでしまった。人間が魔族との子供を産むことにはリスクが大き過ぎることは最初から分かっていたこと。だが、魔王の嫁はリスクを取った。ふたりの愛のために。そして死んだ。

魔王は母親の分まで娘を愛した。優しく、厳しく、父であり母でもあるように大切に育てた。それに応えるように娘も人間味のある優しい子に育った。またそれだけでなく、学力、魔力、武力全てにおいて優秀になっていった。

その結果、魔王が大陸を統べる1歩手前のところでその計画は娘によって阻まれた。結果的に失脚し幼女にされてしまった訳だが、そのお陰で魔王は魂を売り渡さずにすみ、死なずにすんだのだ。


魔王の娘は名をサヤと言う。サヤはコロシアムの管理人をしている。3分間生き残れば生中を考えたのはサヤである。勇者たちの力が危険視されないようにこのイベントを王に立案し、今では対戦相手の斡旋から経理まで全てをこなしている。コロシアムはサヤなしでは回らないのだ。


「剣神ゴウ……いくら調べても出てこないわね」

薄暗い部屋の中でランタンの光を頼りに報告資料を読んでいるがめぼしい情報はない。出場も年齢もそもそも存在していたことすら怪しく感じるほどだ。わかったことは10年前に突如現れて多くの武芸者を木刀1本で襲ったこと。その時、彼に勝った者はいなかった。皆、完膚なきまでに叩きのめされて死にはしなかったが廃人になる者も少なくなかったみたいだ。

そんな未知の存在がまたこの大陸に現れたという情報が入ったのだ。目的が10年前と同じだと、コロシアムに必ず現れるに違いない。試合中のコロシアムに突然現れて乱入し場を乱されることはにされること間違いない。コロシアムの管理人として不測の事態は避けるように事前に手を打たなければならない。

そんなことを考えているうちに夜は更けていった。

「明日はパパのタンゴ発表会だから早く寝ないと」

午前中から始まるタンゴ発表会に向けて床に着いた。

しかし翌日、パパを迎えに行った娘の目の前には荒れ果てた屋敷とボロ雑巾のようになったセバスチャンが待っていた。

「申し訳ありません…お嬢様…魔王様が攫われました…」

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世界を救った勇者と戦って3分耐え切れば生中!※生ビール中ジョッキ 松の木 @matu_noki

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