頼むから俺の好きな人を探らないでくれ
蒼野大和
第1話
誰だって人生で一度は忘れられない恋の一つや二つあって当たり前。
たとえそれが叶わなかったとしても。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「きょーやー! 朝よ! あんた今日、入学式でしょうが。そんなんで大丈夫なの? 」
「ん、んんー! ! 」
軽く伸びをした後、いつもの様に洗面台へと向かう。
「高校生になってもやってることはいつもとあまり変わらない気が…… 」
受験が終わってから数ヶ月、俺は未だに高校生になるという自覚が持たないままの状態だ。
「きょーくーん! 迎えに来たよー」
ーー嗚呼、無性に行きたくないんだが……。
「もー! まだ着替えてもないじゃん! 」
家の中にズカズカと入ってきたかと思ったら開口一番に文句を言ってくるこの子は、隣の家に住む俺の同級生の明智結衣だ。
こいつとは家が隣同士なのもあってか、俺が小さい時から俺に気遣ってくれる唯一の理解者だ。
「今行くから待っててくれ。少し考え事してるから」
「なによー。せっかく迎えに来たのにありがとうの一言くらいあってもいいじゃない! 」
ハリセンボンの様に頬を膨れさせてこちらを睨みつけるその表情はムスッとしながらも瞳は笑っている。
「お前が一緒でよかったのかもな……」
聞こえるか聞こえないかギリギリの声で言い放った言葉を結衣に伝わっているかは微妙だったが、背を向けて立っている姿を見ていると、トマトみたいに赤みを帯びた色をした耳が見える。
きっと恥ずかしくて俺と顔を合わせられなかったのだろう。
そんなこんなで時間が進み、通学時間がどんどん縮まっていく。
「やべ! ! 早くしないと遅刻してしまう! 結衣、行くぞ」
「もう! 入学初日に遅刻なんて学校の晒し者になっちゃう! 」
「だな! それだけは勘弁だ。 それじゃ、母さん行ってきます! 」
「いってらっしゃい。楽しい学生生活になるといいわね」
こうして入学初日からグダグダな感じで始まるのはこの先の俺の未来が危ぶまれる。
頼むから俺の好きな人を探らないでくれ 蒼野大和 @aonoyamato
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