第10話
「それでは、我々ロシア、中国、インドの代表者で話し合った結果を伝えます。」
スミルノフが言った。キャンベルも、アントーノフ達もスミルノフを凝視した。
「作戦は中止します。」
スミルノフが言うと、アントーノフは
「小惑星が本物だったら沢山の市民が犠牲になります、そうなったら攻撃を中止した、あなた方の責任になるんですよ!」
と叫んだ。
「私もソウもカーンも一人の国民の犠牲を出さないという思いで前政権を打倒しました。今でも1人の犠牲も出さないという思いは続いています。私たちはキャンベルさんも1人の犠牲者も出したくないという思いを持って、この場所に来てアメリカの陰謀を暴露したのだと思います。私はキャンベルさんを信じます。時間がありません、早く作戦を中止してください。」
スミルノフは静かにそして力強くアントーノフ達に向かって言った。アントーノフ達は会議室の端にある衝立を開けて通信係に作戦の中止を前線の基地に伝えるよう言った。ヘッドセットを付けた通信係は
「作戦は中止、繰り返す、作戦は中止。総員撤退。」
と伝えた。モニターに映った前線基地の隊長が復唱した。
キャンベルはロシア、中国、インドの仮設指令部が作戦の中止を伝えている姿を見て安堵し、その場にへたりこんだ。カーンがキャンベルのもとへ歩み寄り、
「大丈夫ですか?」
と声をかけた。キャンベルは顔を上げてカーンに向かって
「大丈夫です。ムーアのところに行きたいのですが」
と言った。カーンがスミルノフとソウとバータルを見ると三人は無言で頷いた。キャンベルはノートPCに挿してあるフラッシュメモリーのデータを削除し、女性兵士に案内されてムーアのいる控え室に入った。ムーアはキャンベルの姿を見て、心配そうに訊いた。
「どうだった?」
キャンベルは
「作戦は中止になりました。」
と言った。ムーアは
「良かったー。」
と言ってキャンベルの手を握った。携帯電話を没収されたキャンベルはムーアに
「携帯電話を貸していただけますか?」
と訊いた。ムーアは大きく頷いて携帯電話をキャンベルに渡した。キャンベルは携帯電話で大統領専用機の中の特別チームに電話をかけ大統領代行が読み上げる記者会見の文章を完成させることを命じた。その後グッドマン大統領代行に電話した。
4月30日、アメリカのグッドマン大統領代行は緊急記者会見を開き、今回の小惑星騒動について事実を述べて謝罪し、今回の騒動によって生じた損害賠償請求に応じることを表明した。世界中のテレビニュースで会見の内容は報道された。
3か月後の7月4日、小惑星ホープは大気圏突入と同時に燃え尽き、一瞬だけ天空を明るく照らした。ロケットの残骸は予定通り中国の高原に落下した。中国はロケットの残骸を厳重に放射線防護してアメリカに送った。アメリカは中国に礼を言いロケットの残骸は放射線防護した特殊なアクリル板のケースに入れて議事堂のホールに置かれることとなった。そこにはこう書かれていた。
“小惑星ホープ 権力者は如何なる時も国民を欺くことがあってはならない”
7月10日、日本のミカミ一家は神奈川の海岸に来ていた。空の青さはどこまでも続き、太陽の光がやさしく輝いていた。風は緩やかに海から浜に向かって吹いていた。波は穏やかで、太陽の光が静かに揺れていた。ショウとユウカは砂浜にレジャーシートを引いて、波打ち際で砂の山を作っているサクラとレンを見ていた。水着姿で砂の山を作る子供達は何とも愛らしかった。
「風が気持ちいいね。」
ショウがユウカを見て言った。ユウカは
「本当、気持ちいいわね。」
笑顔で頷いた。
「パパ見てーカニ、カニがいるよ。」
サクラが地面に指を指して叫んだ。レンはサクラの指す指の先を見ていた。
ショウとユウカは立ちあがり、サクラとレンのいる波打ち際まで走って行った。
空に浮かぶ入道雲はゆっくりとゆっくりと流れていった。
パエトンの誤算 コヒナタ メイ @lowvelocity
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます