第9話

 スミルノフはキャンベルに向かって、

「ロシアへようこそ、キャンベル上院議員。」

と言った。キャンベルは

「アメリカ上院議員のエドワード・キャンベルです。本日は突然お邪魔してもうしわけありません。アメリカ大統領代行のグッドマンの特使としてこちらに参りました。」

と言いながら封筒から全権委任状を取り出した。スミルノフは

「どうぞこちらへ。」

と言った。キャンベルはスミルノフ達の前に行き、スミルノフに全権委任状を渡した。スミルノフは全権委任状を受け取ると興味深そうにソウとカーンと一緒に全権委任状を見た。事務官に渡して確認すると、事務官は書類は本物だと言った。

「それではキャンベル議員、お話を伺いましょう。そちらのPCをお使いください。」

と左側のテーブルのノートPCを示して言った。アントーノフがノートPCにフラッシュメモリーを接続した。キャンベルがノートPCを操作すると大きな画面に“アメリカ国防総省内部資料ZONKプロジェクト”と表示された。

「アメリカ上院議会はデイビス大佐事件の真相を解明する特別チームを編成しました。私はリーダーに選出され、事件の真相を究明いたしました。グッドマン大統領代行に真相を説明したところ、大統領代行からすぐにロシアへ行き、代表の皆様に調査内容を報告してくるように指示され、急いでこちらに参ったわけであります。では調査内容を報告いたします。」

キャンベルは国防総省の作成したZONKプロジェクトについて説明し、小惑星の組成が金属であるといった、航空宇宙局のねつ造されたデータと本物のデータを画面に映して説明した。

「つまり、デイビス大佐のメールは事実であり、小惑星ホープは特殊なガスが入った風船だということです。ホープは大気圏に突入時に大半が燃え尽きてしまいます。今回、このような陰謀を企て、皆様に大変な心配をおかけしましたことをアメリカを代表して謝罪いたします。申し訳ありませんでした。」

キャンベルは深々と頭を下げた。会議室はしばらく沈黙に包まれた。スミルノフは

「キャンベル議員、あなたのお話は理解することができました。私が知りたいのは、なぜあなたはここに来て、私たちにアメリカの陰謀を伝えたかということです。」

と訊いた。キャンベルはスミルノフを見つめて、

「私は、今回のような国家が行う謀略が正しいことだと思っていません。政治を執り行うものは誠実に国民に向き合い、国民のために心血を注ぐものだと思っています。」

と言った。スミルノフ達は興味深い目でキャンベルを見つめた。キャンベルが続けて、

「今回訪れた最大の目的は、あなた方に、我が国への攻撃を中止していただくためです。」

と言うと、スミルノフ達は自分たちの攻撃がアメリカにばれていることを知り、驚きの表情を見せた。

「我々がアメリカを攻撃するというのですか?」

スミルノフが驚いた表情のまま訊いた。

「はい、すべて掌握しています。ロシアと中国から発射される核ミサイルの種類、発射日時、攻撃目標などすべてです。」

キャンベルが言うと、

「ばかな。我々の動きがすべてアメリカに知られているなんて!」

アントーノフが叫んだ。キャンベルはノートPCを操作して国防総省のファイルからロシア、中国、インドのアメリカへの攻撃に関する資料を表示した。

「御覧のように、ロシア、中国、インドの今回の作戦はすべてアメリカの国防総省が掌握していて、ロシアからアメリカに撃ち込まれる大陸弾道弾は迎撃を、中国から日本にあるアメリカの基地に撃ち込まれる中距離核ミサイルは迎撃せずに見殺しにするつもりでした。」

キャンベルが言った。

「なぜ、そんなことを。」

ソウが訊いた。

「先ほど説明したようにZONK計画の最大の目的はアメリカがロシア、中国、インドと戦争をして、増えすぎている世界人口を減少させることでした。大量にストックされた兵器の消費も目的の一つです。アメリカは戦争を始めたかったのですが、簡単に戦争を始めることはできません。大儀が必要なのです。小惑星の衝突から避難する目的でロシア、中国、インドにアメリカへ戦争を仕掛けさせて、アメリカの基地が無残に攻撃された映像を見せることで国民の戦意を高めて戦争に突入するのです。もし、あなた方ロシア、中国、インドが核兵器を使用したとすると、こちらも容赦なく核兵器を使用してロシア、中国、インドを滅亡させてしまうでしょう。30億人の人口減はZONKプロジェクトの目標だったのです。」

キャンベルは答えた。

「ばかな、こちらにだって迎撃システムがある。アメリカからの攻撃なぞ返り討ちにしてくれるわ。」

アントーノフが叫んだ。

「残念ながらそうはなりません。」

キャンベルは言った。アントーノフとチンはキャンベルを睨みつけた。

「ロシア、中国、インドの軍事システムのOSはアメリカ製ですね。アメリカ製のOSには特別な仕組みが施されていて、いざという時は遠隔操作でシステムを無力化することができるのです。」

キャンベルが言うと、アントーノフが

「ばかなことを言うな、証拠はあるのか、証拠は?我々の軍事システムを無力化できるというのなら証拠を見せてみろ。」

と叫んだ。

「証拠はお見せできません。この話も国家機密で、本来ここで言うべきではありませんが、あえて言わせてもらいます。もし、ロシア、中国、インドがアメリカに攻撃を仕掛けた場合、ロシア、中国、インドは滅亡してしまうのです。」

キャンベルはアントーノフに向かって言った。

「小惑星は偽物だった、我々の軍事システムは無効化できるだなんて、そんなことを我々が信じて、もし小惑星が本物だったらロシア、中国、インドは滅亡してしまうぞ。」

アントーノフは言った。しばらく沈黙が続き、スミルノフが口を開き、

「少し、我々だけで相談する機会をいただけますか?」

とキャンベルに訊いた。キャンベルが頷くと、スミルノフとソウとカーンは会議室を出て行った。キャンベルはノートPCの前に立ったまま、アントーノフやチン達に睨まれていた。キャンベルにはスミルノフ達が会議室を退出してからとても長い時間がたったような気がした。10分後、スミルノフ達が会議室に入ってきて席に着いた。

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