第36話 Same as you are Ⅱ
「え、別れたんですか?」
「うん。深井くんも薄々気付いてたんじゃない?」
「あー、まあ……。でも、想太さんは結構大切にしてくれてたんじゃないですか?」
今日は浅田さんと夜勤に入っている。
僕がバイトに復帰してから、初めて浅田さんとシフトが被った日だった。
僕も浅田さんも大学があるし、それ以外はどちらかがシフトに入っているから、なかなか2人きりで話すタイミングがない。
正直もどかしい気持ちもあったけど、今日はゆっくり話せるかな、と楽しみにしていたんだ。
「まあ私の目のことを話せないのもあったけど、私との温度差があり過ぎたんだよ」
「確かに過保護ってくらいの感じでしたからね」
「そう。だから想太さんが悪い訳じゃなくて、単純に波長が合わなかっただけなんだと思う」
そう話す浅田さんの表情は晴れやかに見えた。
店には誰もいない。
金曜日の午前2時。
秋の田舎は暗闇に静まり返っている。
「それで、想太さんは納得してくれたんですか?」
「納得してくれなかったら別れられてないよ。そりゃ、どうして?とか、何が足りなかった?とかは聞かれたけど、合わないって言われればそれまでなんだよね」
けっこうストレートな言い回しだな…
ただ、人に気を使うからこそストレートに気持ちを伝えるみたいなテクニックを駆使するところ、さすがと言ったところだろうか。
「今度想太さんと2人きりでシフト入る時気不味いじゃないですか、もー」
「ん?どうして気不味いの?」
あ、これ確信犯だ。
浅田さんの表情を見ると、したり顔でニヤニヤしている。
想太さんからしてみれば、あの事件で浅田さんを助け出した僕が寝取ったように見えてもおかしくないだろうし、それも浅田さんは分かって言っているのだ。
まったくタチが悪いったらありゃしない。
「だ、だって…」
「まあ何か言われても、深井くんが気にすることないよ。あまり酷かったら私に言ってくれればなんとかするし」
こういう話になると浅田さんの方がなんとも頼れる存在。
情けない話だけど、ここは年上に任せようと思った。
「浅田さんはこれからどうするんですか?」
「何を?」
「か、彼氏とか…」
「うーん、もうちょい心が落ち着いてからかな」
「そうですか……」
「なんでそんな落ち込んでるの。元気出しなよ!」
そう言うと浅田さんは僕の背中をバシッと叩いた。
「何にせよ私が頼れるのは深井くんしか居ないんだから。これからもよろしく頼むよ!」
思いの外強く叩かれた背中がヒリヒリするけど、なぜか悪い気はしない。
僕は浅田さんのように人の心は分からないけど、それでもこの痛みから伝わってくるものを感じ取れる。
きっと今、僕と浅田さんの気持ちは同じだと思う。そうだったらいいな。
そんな2人が働く田舎の夜の空は、満点の星で輝いていた─────────
Same as you are りんゆ @drumvocal
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