006 最新スマホをゲット。

「ケンタ。死んでもベルを守るのじゃ。わらわは天使様なるぞ」


 俺の背中に飛び乗ってしがみつ見習い天使ベル。


「おい!それじゃあ動けんだろ。武器はないのか」


「天使は平和主義者なのじゃ。武器など知らん」


 マジで使えん。天使の足手まといかよ。こんなデカ物に素手で戦えっかよ。


 何か武器になるものは・・・。


 俺はビリビリに破れたズボンのポケットに手を突っ込んだ。


 くっ。スマホくらいしかない!


「ハルさん。勇者が持っていた剣はどこだ」


「聖剣ならここにあるです」


 猫耳美少女ハルがメイド服の腰に巻いたエプロンの大きなポケットを両手で広げる。


「マスターケンタ様。早く手を突っ込んで取り出すです」


 微妙な位置だぞ、ソコ。


「長くて自分じゃ引き出せないです」


 独りで引き出せないものをどうやって入れたのだろう。なんて考えている暇はない。


 グ、ゴゴ、ゴゴー。


 ゴールドゴーレムが唸りながら走ってくる。


 恥ずかしがっている余裕もない。俺はハルさんのお腹のポケットに手を突っ込んで、聖剣を引き出した。


『ピポン。ケンタの腕力が35プラスされました』


『ピポン。ケンタの素早さが38プラスされました』


『ピポン。ケンタが聖なる光を手に入れました』


 頭の中で例の声が鳴り響く。


 迫りくるゴールドゴーレムに向かってなぎ払う。


 聖剣がまばゆく輝き、白い光線がゴールドゴーレムの体を上下に分断したのだった。


『ピポン。ケンタがゴールドゴーレムを倒しました』


「あれっ。変だぞ。レベルが上がらない」


「ケンタは魔王の魔石(クリスタル)でカンストしているから99以上にはならんのじゃ」


 ドヤ顔で説明を始める見習い天使ベル。ムチャ、ムカつく。


 そんなことはさて置き目の前に金塊の山が。マジ、大金持ちじゃねー。


 俺はプライドを捨ててかき集める。


「何しとるんじゃ、ケンタ」


「金塊だぞ。おこちゃまにはわからんだろうが一生遊んで暮らせるくらいある」


「剣にも鎧にもならん。やわらかすぎでムチャ重い役立たず金属だぞ」


「?」


 見習い天使ベルが、俺の横をトコトコと歩いてゴールドゴーレムの残した金塊の中から小指の爪くらいの透明な石をつまみ上げる。


「ほれ。白の魔石(クリスタル)ぞよ。この世界では金など何の価値もないぞよ。食糧も武器もエネルギーも魔物を倒すことで得られる魔石(クリスタル)から生み出されるからのー」


 見習い天使ベルは白の魔石(ホワイトクリスタル)を俺に投げてよこす。


「白の魔石(クリスタル)は魔道具を作り出す材料じゃ。剣でも鎧でも、想い描いたものに何にでも変化(へんげ)するのじゃ」


「そっ、そうなのか。こんなものが・・・」


 俺は白の魔石(クリスタル)を見つめる。


 元いた世界とは経済のシステムがまるで違うのか。魔物を倒した報酬はこの小さな石とは。


「緑の魔石(グリーンクリスタル)は食糧。黄の魔石(イエロークリスタル)はエネルギー、赤の魔石(レッドクリスタル)は炎、青の魔石(ブルークリスタル)は水、紫の魔石(パープルクリスタル)が薬になるのじゃ」


「マスターケンタ様。なにか思い浮かべてみてください」


「道具なら何でもいいのか?」


「マスターケンタ様が知っているモノならその姿になるはずです」


「俺が欲しかった便利な道具と言えば・・・」


「うわっ。オレンジフォン11じゃんかよ。5Gの最新式じゃねー。コレ」


 俺は夢にまで見た最新スマホを異世界のダンジョンでゲットしたのだった。

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歩きスマホでマンホールに落ちた俺は、異世界でスマホを作って世界制覇を狙います! 坂井ひいろ @hiirosakai

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