モラトリアムは終わらない

にゃごたろう

第1話 カップ麺的お手軽な日常

最悪な一日の始まり。


それは、起きしなにカップ麺のスープをひっくり返すような朝のことを指す。



昨日、深夜に夜食として買ってきたどん兵衛、きつねうどん。

その残り汁が入った容器を、どうも私はこたつの上に置きっぱなしにしていたらしく、クソうるさい目覚まし時計を止めようとして手を伸ばした結果、誤ってカップ容器をくるりとひっくり返してしまった。


もう何をしても手遅れなので、いったんは二度寝してみることにする。


それから15分して、私はようやく現実を直視せざるを得なくなって、近くにあった穴の開いた靴下で、テーブルと床下の汁を拭きとった。


テーブルの上には、昨日、どん兵衛と一緒に購入した発泡酒の500ml缶もあって、振るとぽちゃりといい音がした。



こりゃ半分は残ってる。

冷やせばまだいけるよね。



私は発泡酒缶を冷蔵庫に収めて、トイレでアルコール交じりのお小水とゲップをかましながらぼんやりと思った。


―――こぼしたのが発泡酒缶じゃなくて、カップ容器の方でラッキーじゃん。


最悪な朝と思ったけれど、そういうのは後々考えると、案外大したもんでもないもの。どうせ靴下も捨てようとしていたから、最後に布としての役目を仰せつかって、あいつもさぞや感謝してるはず。


あくびをしていると、そのうちにおっきい方も出そうになってきたので、私は気張りながら、時間潰しにスマホでLINEを確認した。


すると、友人の知世から『今日、ファミレス飲みしよ』との飲み会のお誘いが来ている。三人のグループLINEなので、すでにもう一人の友人、祥子も『生ハム万歳』と賛同の意を表明していた。


ファミ飲みもいいけど、麻雀ゲームしたいなと思い、『先に家でツモどう?』とメッセージを送ると、二秒後にはもう『はい、ロン』『ロン』と、二人から許可を頂いた。


「はは、ウケる」


なんかよくわからないけど、朝から笑いが出てしまった。





くそみたいな日常に、くそみたいなことを混ぜると、ちょっとだけ幸せになったり、ならなかったりする、というのが私の持論。


人間なんていつ死ぬか分からんし、周囲の視線なんて気にせずに、やりたいことやっとくのが一番だと思ってる。



今年で二十八の独身、フリーター女子。

両親がくれた『唯(ゆい)』という名に負けず、今日も『私だけのらしさ』を貫いていく所存。


絶賛、モラトリアム継続中でございます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

モラトリアムは終わらない にゃごたろう @nyagotaro_gusuka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ