AM 5:58

 目を開けた――はずなのに、何も見えない。手のひらに、錠の冷たい感触。お戒壇巡りの道中に、私は戻っていた。

「お帰り。少し怖かった?」

 階段を登れば、濃度を増した夏の匂いとおばあちゃんが待っていた。

「大丈夫。待たせてごめんね」

「ううん。ほんの2、3分だもの。帰って朝ご飯にしましょ」

 ――またな

 歩き出した途端、あの声がした。全ては現実だと思い知らせるように。だから私は呟いた。

「あなたなんて必要のない世界が、すぐにやって来る」

 ――お前がいる限り、私は消えないよ

 小さな小さな声が返ってきた、3ヶ月後。


 ウイルスは、世界から人類の半分を消し去った。

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疫病神になった日 藤真唯 @toma1121

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