最終話「最強賢者は残機0でも諦められない!?」
長い長い夜が明けてゆく。
それを今、シズマは巨大な
だが、彼の全身はほぼ完璧に、呪いにも似た魔法の刻印に覆われていた。
先程鏡でも見てみたが、これではアニメか漫画のキャラクターである。
それでも、戦いは終わった。
もう、これ以上
「おはよう、シズマ。……仲間を見送っているのか?」
ふと背後で声がして、振り向くとディリアが
彼女は隣に来て、一緒に並んで遠くの空へと目を細めた。
今、無数の流星が空へと昇ってゆく。
その一つ一つの輝きが、
これよりエルエデンは、
「……ルベリアさんも、行っちゃったな」
「ああ。だが、陛下に後のこと、魔族の今後をオレは託された。オレは魔王を継ぐが、人間との共栄共存を目指すつもりだ」
「それ、いいな。ディリアならいい魔王になれるさ。優しい魔王にな」
「む、むう……なんというか、またさらりと無自覚にそういうことを言う」
「いや、本音の本心さ。それくらい許せよ。ちゃんと、そういうお前もずっとこれから見てくからさ」
シズマは残ることにした。
神様にそのことを約束したし、これから責任をもって神様を見守っていくつもりだ。なにせ、世界ごと人間を何度も創造してきただろうが……自分が人間になるのは初めてだろう。
彼をその気にさせて、乗せて、導いた。
だから、その先までしっかりと共に歩きたいのだ。
「あのさ、ディリア。ルベリアさんは、実は……」
「ん、お前たちの世界、チキュウとかいう場所でのことか?」
「そう。ルベリアさんは俺より何千年も前の人間だった。その最後を俺は歴史でしっている。そして、あの人はそれを全うするために帰っていった」
「陛下らしいな……実にあの人らしい。あの方は魔王などという
ふむ、と考える素振りを見せてから、ディリアが珍しく
「魔王、よりもっと、こう、強そうな……荘厳にして流麗な。例えば……
「お、おう……それ、ルベリアさんが聞いたら喜ぶぞ、ディリア」
「魔皇帝ルベリアのことをオレは、後々の魔族に伝えよう。それが歴史となって、
空へと
そして、絶えて消える。
帰還を望んだ者たちは皆、無事に帰れたと思う。
これでもう、シズマは二度と元の世界、地球の日本へは戻れない。
だが、それでいい……まだこのエルエデンで、やらなければいけないことができた。と、言うよりは……やりたいことを見つけたのだ。
その思いを新たにしていると、船室のドアが背後で開く。
「ふあぁ、ふう……超ねみいし。あ、シズマ! おいすー、おはおはー!」
「おう、アスカ。なんだお前、目が死んでるぞ」
「低血圧なだけだし……ってか、死んでないし! 生き残ったし! みんな、生き残ったんだよね。エヘヘ、上出来じゃん?」
「だな」
アスカはぽてぽてとシズマの隣に来て、ディリアと挟んでくる。そして、そっと手を述べ、
「その、タトゥみたいなやつさ……ディリアから聞いた。あのさあ、シズマ……そういうのなし子ちゃんっしょ。ええかっこし過ぎ」
「ご、ごめん」
「……かっこいいなんて言って、ゴメン。でも、やっぱシズマさ、かっこいいじゃん」
「だろ?」
「なんか、ぼんやり光ってるし。これ、全身
「ああ、結構びっしりだぜ? 見るか?」
シュボンッ! とアスカが真っ赤になって離れた。
あまりにも
初めて彼女の笑いの沸点が、シズマにも実感できるレベルのものに感じられた。
「心配かけて悪かったな。まあ、ルベリアさんの置き土産さ。もう使うこともないだろうけど……生命力を魔力の代わりに使って魔法を撃つと、次の一発で俺は死ぬかもな」
「そ、そそっ、そうなん、だ……うぐぅ」
「ま、魔法を使わなきゃ大丈夫なんだけどな」
ディリアが改めて、アスカに説明する。
魔族の固有魔法、ライフストリーム……生命力を魔力の代わりに消費する、呪いにも似た術である。それを身に受けたシズマは、既に限界ギリギリまで生命を削っていた。
だが、まだ生きてる。
そして、これからも生きていくのだ。
「そっかあ、全身にこの模様が広がったら……え? それってもう、やばくね?」
「まあ、そうだな。シズマ、かなり広がってるようだが、体調は大丈夫なのか?」
「だって、顔は
アスカがシャツをめくってくるので、慌ててシズマは彼女を引き剥がした。
そして、そんなシズマをねっとりと見詰めてくる視線がある。
物陰からずっと、メイコがフラットな目でこちらを
「お、おう、メイコ! おはよう。どうだ、少しは休めたか?」
「……シズマ、あのぉ……今、なにしてたの? その子、一緒に戦ってた子だよね?」
「同じ日本から来たアスカだ。こいつも残るって言ってさ」
「そう……あっ! そ、それより! そう、その体! 肌の刻印!」
「あ、うん。すまんディリア、また説明してやってくれ。基本的にはもう大丈夫なんだが」
ディリアは口元を抑えて、そっぽを向いてしまった。
彼女の肩が、僅かに震えている。
笑いを噛み殺そうとしているようで、やはり魔族の笑いのセンスというものは不可解なのだった。だが、改めてシズマはメイコに歩み寄り、日陰から引っ張り出す。
「今後も俺、お前のこと助けるからさ。手を貸したり、時には足も引っ張るだろうさ。でも……結果まで含めて、ちゃんとメイコに向き合うよ」
「えっ、あ、えと、うん、はい! よ、よろしく……お願いしますぅ」
強い風の中、冷たい空での約束。
以前の
そのことを改めて告げたら、メイコも懐かしい笑みを見せてくれた。
そして、大団円を迎えていると……話をややこしくする二人が船倉から現れる。
「かくして、危機は去りましたわ! 転使たちは神様が人間になることで、その力を失ってしまいましたの」
「だがっ、このマッスルサーガが断言するのであるっ!」
「ええ! よくってよ、アレクセイ!」
「ノゥ! 私はマッスルサーガ、
無駄にテカテカした筋肉美で、
しかも、とびきりかわいいエルフの美少女と共に。
アレサは今日も、眩いスマイルでマッスルトークを展開していた。
「シズマ、それにメイコもアスカも。筋トレですわ……力を亡くしたのなら、鍛えればいいではありませんか! 帰ったら食事から見直して、徹底的に身体を絞っていきますわよ!」
「え、いや、ちょっと待ってアレサ。俺たちほら、もう戦わなくてもいいから」
「生きることは戦いですわ! それに、健全な心は健全な筋肉に宿るのですから。四の五の言わずに鍛えるべきですの! ああ、そうそう……メイコ、先程の話ですが」
アレサは今日も鍛え抜かれた肉体美を惜しげもなく晒している。まさか、例のビキニアーマーに予備があったとは驚きだ。
だが、次の一言にシズマはもっと驚いた。
「シズマは全身に例の紋様が余さず広がると、死にますわ。でも、昨夜確認したら右の
メイコがふらふらと、失神しかけてアスカに支えられていた。
ディリアも言葉の意味が頭に入ってこないらしく、何度も
確かに、一箇所だけ刻印が記されていない場所があった。
「ア、ア、アッ、アレサ! ななな、なんて破廉恥な!」
「お互い見てしまったあとですもの、それに……わたくしも心配で、つい。でも、大丈夫ですの! これからはシズマは、魔力や魔法ではなく、筋肉に頼るべきですわね!」
ニッカリ笑ったマッスルサーガを背に、今日もアレサは上機嫌である。
そして、一同を笑いが包む中で脳裏に言葉が走った。
『やあ、シズマ……どうやら一件落着のようだね。私の方も片付いた。神としての権能は、希望する全ての転使を元の世界へ転移させた後に、永久に封印したよ』
「おっ、神様か! じゃあ、一緒に人間やってみようぜ。俺の世界には、人間のままでも世界を救った偉い人、沢山いるしさ。ただ生きてみるだけでも、かなりお得だぜ?」
『それは楽しみだ。では、シズマ。期待しているよ……なるべくいい感じに産ませてくれたまえ』
「……は?」
いつもの
『私が人間になる手続きだが、シズマ。君が今後、
「えっと、つまり……ゴメン、言ってる意味が」
『人たらしならぬ神たらしの君だ、よき父親になってくれることを望むよ。人間として生まれ直すことを、楽しみにしている』
言うだけ言って、神様は消えた。
かつて神だった人は、また会う日まで出てくるつもりはないらしい。
そして、恐る恐る振り向けば……そこには、少女たちがずらり並んでシズマを囲んできた。
「いっ、今の話は、ひょっとして……聴こえて、た、みたい、です、よねえ……アハハ、ハハハハッ! お、おかしいなあ、人間やってみろって、そういう意味じゃ――」
そして、シズマの新しい戦いの日々が始まる。
王都へと帰還する船の上で、少女たちの日常が幕を開けたのだ。衝撃の第二幕は、誰も知らない明日へと繋がり、その先の未来へ
とりあえず、四人もいっぺんに迫られては身が持たない。
そういう意味では、筋トレも少しはしたほうが身のためだと思うシズマなのだった。
転生無用!バスターエルフ~最強賢者は無能力になっても諦めない!?~ ながやん @nagamono
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