【男1女1不問1】アイドルオタク墓地【コメディー・シリアス・現代ドラマ】

きよなが

アイドルオタク墓地

本作は、ネット通話・ネットライブ配信を利用した無料の読み合わせ劇に使用する台本を想定して書いております。(事前連絡不要。アーカイブ公開は一週間以内までとし、それ以上は要連絡とします。印刷される場合は印刷日も必ず印字し、印刷日から1週間以内に破棄して下さい。)

それ以外の用途でのご利用は固く禁じます。無断転載もご遠慮ください。

Japanese version only

当台本を利用し偶然発生した利益に関しては此方から何か問う事はありません。ただし、発生した不利益に対しても当方は一切責任を負いません。


Bの口調が男性っぽくなっておりますが、性別不問といたします。

読み手様の自由を妨げないよう、細かいト書きや感嘆符(!)はあえて使用しておりません。

全役、一人称・言い回し等は言いやすく変更してご利用頂いて大丈夫です。


Cは1ヶ所歌うシーンがあります。(♪~♪の間です)

歌詞は自作ですので、それっぽくやって頂ければ良いかと思います。

BのFoo(合いの手的な奴)も適当に雰囲気に合わせて調整してください。

台本通りに8回ずつやってスベっても、作者は責任を取りません。



A:♂  先に墓地にいたアイドルオタク

B:♂♀ 今墓地に来たアイドルオタク

C:♀  Bより後から来るアイドルオタク

上演時間:35分程度





B「(目覚める)」


A「やあ、目が覚めたようだね」


B「あなたは?」


A「君の同士さ」


B「同士?」


A「ここがどこだかわかるかい?」


B「ここは。  墓地?」


A「そうさ。墓地だよ。何の墓地だかわかるかい?」


B「  何の墓地、とは?」


A「記憶が曖昧なんだね。ここに来てすぐの人は大体そうさ。」


B「そうなのですか?記憶喪失?」


A「まぁ似たような物かな。大抵一時的なものだよ。」


B「あの、話が見えません。ここは一体。」


A「ここはね。アイドルオタク墓地。アイドルオタクが、オタクとして

  死んだ時にやってくる場所さ。」


B「アイドル  オタク墓地」


A「そう。ここに来たってことは、君にも推しがいたんだろう?

  でも、その夢が突然失われてしまったって事さ」


B「推し  ウッ 頭が」


A「無理に思い出そうとすると辛いよ。強い衝撃だっただろうからね。」


B「そんなこと言っていられません。早く戻らないと。僕抜きじゃ仕事が

  回らない。」


A「真面目だね。君の蘇生は早そうだ。」


B「そうなのですか?」


A「ああ。僕は色々な人を見てきたけど、君みたいに、仕事や家族等、アイドル以外

  に心の拠り所がある人は、比較的早くにここを出ていく」


B「心の 拠り所」


A「うん。 まあ何にしても無理は良くない。ゆっくり思い出していけば良いさ。」


B「はい。 ありがとうございます。 なんだか、眠くなってきました。」


A「うん。そういう時は休んで良いんだよ。ここではね。」


B「はい。 そうします。 おやすみなさい。」


A「おやすみ。」






C「ハロハロ―。貴方に恋するヴァーチャル彼女、島宮遥でーす。」


C「じゃじゃーん 今日は新作衣装でーす。似合うかな?」


C「今日は、私がお菓子作ってきたの。はい、あーん」


C「今日もお疲れ様。私の耳かきでゆっくり癒されてね」


C「大好きだよ。」





B「ああああああ」


A「どうしたの、そんな大声を出して」


B「わかりません、わかりませんけど。何か良くない夢を見ていてような

  気がします」


A「内容は?」


B「覚えて いません。 思い出せない。」


A「きっと推しの夢だったんだろう。辛かったね。」


B「 はい。」


A「今はゆっくり深呼吸して。心を落ち着かせることだよ。」


B「はい。  落ち着きました。ありがとうございます。」


A「よかった。」


B「すみません、ご迷惑をおかけして。」


A「良いさ。慣れているからね。気にしなくて良い。さて。

  今はこの子だ。」


B「え?」


C「ウッ」


A「目が覚めたようだね」


C「  ここは?」


B「・・・」


A「ここは、アイドルオタク墓地。推しを失った人間が訪れる場所さ」


C「推し を?」


A「そうさ。」


C「ふざけないでよ。早く戻らなきゃ。私以上に、遥を

  動かせる人なんていないんだから」


B「  遥?」


C「そう、ヴァーチャルアイドル。島宮遥。知ってるの?」


B「しま みや」


A「失礼、バーチャルアイドルっていうのは、何かな?」


C「何、知らないの?今流行ってるんだよ。3DCGのアイドルが

  動画配信してアイドル活動するの」


A「そうなんだ。すごいな、今はそんな風になってるんだね

  時代は進んでるんだな。」


C「何なのおじさん。もしかしてバカにしてる?」


A「いいや、そんなことはないよ。ごめんね。僕はここが

  長くて、世情には疎くて」


C「ふーん。まぁいいけど。」


B「ウッ ウウウウウ」


C「えっ ちょっと 何よ急に」


A「大丈夫かい?」


B「突然 頭が ものすごく 痛い」


A「もしかしたら、今の会話が推しに関する記憶に触れたのかもしれない」


B「ウウ その 声 なんだか 聞き覚えが」


C「え、私?  あ。もしかして。

  ハロハロ―。貴方に恋するヴァーチャル彼女、島宮遥でーす。」


B「あああああああああああああああああ」


C「これだ」


A「やめたまえ。これ以上苦しませるわけには」


B「いいや  続けて ください。」


A「え?」


B「何か もう、ここまで出かかってるんです。もう少しで何か思い出せそうな

  そんな気がするんです。」


A「  なるほど、わかった。今がその時なのかもしれない。

  君、他に、その島宮遥のキャッチフレーズとか、ないのかい」


C「遥を呼び捨てにしないでよ。 うーん、そうだな、さっきの挨拶が

  それなんだけど。あ、でも、オリジナルソングがあるよ」


A「おお、それ。頼むよ」


C「♪見てて 見てて 素敵な未来 遥か 遥かな夢

   思い込めて ものすごい愛

   二人 二人でいたい♪  いくよ?」


B「 Foo  Foo  Foo  Foo  Foo Foo Foo Foo 」


C「せーの」


B「 Foo  Foo  Foo  Foo  Foo  Foo  Foo  Fooooooooo 」





A「こんな感じなのか?」


C「うん、合ってる。私も間近で見たのは、はじめてだけど」


B「思い 出した」


A「そうか。」


B「僕、遥ちゃんのファンだったんです」


A「うん、そうだろうね」


C「そして私は遥の中の人」


B「 アナタが」


C「そうよ」


B「全然違いますね」


C「うるさいわね。言われなくてもわかってるわよ」


A「それにしては少し辛そうだぞ」


C「うるさいわね。放っておいてよ」


B「(小さく笑う)」


A「うん。 よし、少し元気になったかな。ご協力ありがとう」


B「はい、ありがとうございます」


C「私をダシに使ったわね」


B「すみません」


A「まぁまぁ。ごめんね。」


C「まぁ、別にいいけど」


B「ありがとうございます。」


C「いいわよ。 その。いつも応援ありがとう。」


B「(小さく笑う)、こちらこそ。」





A「さて、記憶も戻ったところで、少し状況を整理しよう

  君たちは、早くかえりたいんだよね?」


C「もちろん」


B「はい。」


A「私が思うに、君たちがここに来た理由には、何か因果関係がある

  ような気がする。だから、話してくれないか。

  はやく帰る為の糸口が見つかるかもしれない」





B「大人の事情、ってやつでしょうか。」


C「…」


B「突然、遥ちゃんの中の人が変わったんです。公式の発表では、

  元のアクターさんの体調不良により自首降板ってなっていましたけど。」


C「違う。体調不良なんかじゃない。私は降ろされたの。」


B「そうだったんですか」


A「それはどうして」


C「簡単な話よ。寝取られたの」


B「 ウッ その声でそんな話は聞きたくなかった」


C「あああ、 ごめん」


A「まぁ、事実だし仕方がないさ。」


B「でも、もしそれが事実なら、公になったら大変な事になりますね」


C「そうよ。だから私は世間に公表するつもり。公表して、私の遥を取り戻すの

  だから早くかえらないといけないのよ。どうしたら戻れるの?」


B「それがわからないからこうやって考えてるんじゃないですか」



A「 うーん」





A「私の経験上、ここから戻る方法は1つだ。失ったアイドル以外で、

  新たな希望を見出すこと。心の拠り所を見つけること。

  つまり、新たな生きる理由を見つける事だ。」


B「アイドル以外の、生きる理由」


C「私はまだ失ってない。これから取り返すの。」


A「それはどうだろう。」


C「どういうことよ。」


B「うーん。そうですね、僕も今の話を聞いて、ちょっと難しいかなと思いまし

  た。」


C「どういう意味なのよ。悪い事をしているのはあっちなのよ」


B「まぁまぁ、落ち着いてください」


A「 うーん。少し言いにくい話だが。つまりね。 もし、君がその事実を

  世間に公表したとする。そしたら世間はどうなる?」


C「どうなるって何よ」


B「一部 騒然とするでしょうね。一応、新しいコンテンツとして地位を得だした

  業界です」


A「勿論その事務所は吊るしあげられるだろう。場合によってはなくなるかも

  しれない。」


B「そしたら、遥ちゃんの居場所もなくなりますね」


C「それがなによ。そしたらまた私が遥をやるだけよ。事務所なんて私がイチから

  立ち上げてやるわ」


B「影響はそれだけじゃないんですよ」


C「え?」


B「Vアイドル界は確かに世間の注目を集めています。それなりに利益ビジョンも

  確立しました。しかし、まだ出来て間もない業界です。もし、今そんな話が

  広まったら」


A「業界に対するイメージが悪くなる。そうだね?」


B「はい。」


C「 っ  だから何よ。そんなの、私が遥をやるのには全く関係ないじゃない。

  遥には私が必要だし、私にも遥が必要なの。」


A「最悪、その業界自体がなくなるんだよ。」


C「えっ」


B「その通りです。業界に対するイメージが悪くなれば、段々とその業界から

  人が離れていき、みるみる廃れていく。そのうち見向きする人がいなく

  なるかもしれません。」


A「いくらアイドルを中心に人が集まるといえど、人が人を集める、という側面

  もある。業界自体が廃れれば、ファンの数も自然と減っていくだろうね。

  それは、アイドルの在り方としては、果たしてどうなんだろう」


C「そ、そんなこと。テレビ業界だって、悪い事いっぱいやってるじゃない。

  でもなくなってない。Vアイドルだって大丈夫だよ。」


A「それは、テレビ業界にそれだけの地位と歴史があって、

  なおかつ不祥事をもみ消すだけの人脈と財力があるからなんだよ。」


B「そうですね。テレビに比べて、ネット収益自体、歴史はすごく浅い。

  その浅い歴史の中での芸能活動です。それに、個人に注目も批判も集まる

  テレビアイドルと違い、ヴァーチャルアイドルは組織的に運営されている事を

  ファンも皆理解している。ひっくり返されたらあっという間でしょうね。」


C「そんな」


A「少し変だ、と思っていたんだ。ここに来る人は皆、強いショックにより、

  その引き金となる記憶を一時的に失って やってくる人ばかりだった。

  でも君は、どうもそうではなさそうだった。しかし、ここに来る人間は

  皆アイドルオタクで、時間をかけて別の希望を見出し、ここを去っていく。」


C「なによ、それ。どういう意味」


B「  すみません、僕からは言いにくいです。」


A「良いよ、こういうのは年長者の務めだ。つまりだ。君に伝えるのは心苦しい

  事だが、君がここへ来たということは、その、島宮遥、さん。が、

  君の元にかえってくる確率は、限りなくゼロに近い、と考えられる。」


C「…え」


B「そう、なってしまいますね。僕としても、すごく残念ではあるんですが。」





C「何よ」


C「ちょっと待って」


C「ゼロじゃないんでしょ?」


C「じゃあ私の今まではなんだっていうの?」


C「この気持ちは?」


C「遥に全部注いで」


C「遥が嬉しくなると私も嬉しくなって」


C「一緒に泣いて」


C「一緒に踊って」


C「一緒に歌って」


C「一緒にファンの皆と話して、喜んでもらって」


C「私が生きがいだっていってくれたファンもいる」


C「私の喜びを、一緒に喜んでくれたファンがいる」


C「全部全部、なんだったの。私のものじゃなかったっていうの」


C「ねぇ、なんでよ。なんだったのよ。私の今まで。

  一体なんだったっていうのよ。答えてよ。ねぇお願い。教えて。」





C「ごめんなさい」


B「落ち着きましたか?」


C「 うん。」


A「なら良かった。」


C「ごめんなさい、言いたいことはわかる。

  でも、お願い。少し、私の気持ちを聞いてほしい」


B「はい。話せるだけ話してみてください」


C「私ね、子供のころからアイドルが大好きだったんだ。

  不器用であまりうまくなかったけど、歌や振付を真似して

  ライブもDVDで何度も何度も観てた。ライブを観ながら一緒に

  歌っている内は、自分もアイドルになれたような気がして。

  自然と、私もなりたいと思った。」


B「はい。」


C「でも、私なんかがアイドルになれるはずがなかった。

  一応オーディションも受けたけど、軒並み落ちた。

  そんな時なの。声優にならないか、って声がかかったのは。」


B「声優に?」


C「うん。私、本職は声優なの。」


A「声優っていうと、漫画に声をあてる仕事か。」


B「アニメに、ですね。」


A「ん、何か違いがあるのか?」


C「  続けて良い?」


B「すみません、どうぞ。」


C「 なんとか声優にはなれたけど、そのあとの私も結局鳴かず飛ばずだった。

  今時は、容姿もアイドル並に良くないと売れない時代なんだよね。

  脇役は何本かもらえたけど、声優1本で生活なんてできる稼ぎには

  ならなかった。」


A「今は、そんなに厳しい世界になってるんだな」


C「そうだよ。おじさん、知らないの?」


A「すまない。僕は、ここが長くてね。」


C「その頃の私は、結構 課金もしたんだよ。まぶたとか鼻とか」


B「整形したってことですか?」


C「ハッキリ言わないでほしいな」


B「すみません。」


A「もう、アイドル業界と何ら変わらないな」


C「そうね。  そうなの。そこまでしても、芽が出る事はなかった。

  同期は新人賞に選ばれ、キャリアをどんどん積んでいく。

  同期っていっても、同期生ってわけじゃなくて、前後2,3年の内の

  ほんの1人、2人だったけどね。」


A「狭すぎる門だな」


C「そうね。だから、私は半ば諦めてた。でも、これからどうしよう、って

  そんな時だよ。遥のオーディションに受かったのは。」


B「おお、めでたいですね。」


A「素直だな君は。」


C「そうね、わかっていても少し鼻につくかな。」


B「そんな。  すみません。」


C「いいよ。  私ね、とっても嬉しかった。はじめてのメインだったのよ。

  それに、やればやるほど、アイドル好きだった私にとっては天職に思えた。

  ヴァーチャルっていったって、アイドルはこうあって欲しい、みたいな理想像は

  そんなに変わらないのよね。遥を通じて、私はなりたいものになれたし、

  遥のファンが増えるたびに、推しが育っていくような気がして、

  とても嬉しく思えたの」


A「育てる様は、まるで母親のようだな」


C「そうかもしれない。それに近いものを、私は感じていたのかもしれないね。

  だからこそ、こんな形でお別れなんて、酷すぎる、って。なんとしても遥を

  取り戻す、って。そう思ったら。急にプツン、ってなって。気づいたら、

  ここにいたの。  でも、そうだね。結局私は、アイドルとは縁遠い星に

  産まれた人間なのかな」





B「あの。  僕は、あなたが好きです。」


C「は?」


A「いきなりなんだね」


C「な、なによ。今そういうのやってないよ。」


B「ち、違います。ちょっと僕の話を聞いてください。

  僕がここに来たのも、遥ちゃんの声と活動方針が、別人のように

  変わったからなんです。」


C「 まぁ、確かにそんな気はしてたけど」


B「私は、あなたの頃の、純粋に彼女として」





B「彼女、というコンセプトで振舞ってくれていた頃の遥ちゃんが好き

  だったんです。」


C「言い直したね。」


A「一応、気を使ったんだろうな。」


B「うるさいですよ。 最近の遥ちゃんは、こう、万人受けを目指すようになった、

  というか、それに、なんかちょっと」


C「セクシーになった」


B「その通りです。匂わせ感がすごくて。僕の知ってる遥ちゃんじゃなく

  なっちゃったな、って。それで気落ちして、気づいたらここにいたんです」


C「あれは、あの子の持ち味を加味した結果よ。私が育ててきた遥を汚された

  ようで、ものすごく嫌だったわ。」


A「しかし、その路線の方が目先の利益を得やすくはなりそうだな。」


B「そうですね。賛否はありましたけど、新規ファンも多く獲得し、

  遥ちゃんは当時よりもファン数を伸ばしました。」


C「そうね、悔しいけど。」


B「結果として、私のような古参ファンが、疎外感を抱いて離れてしまう事も

  ありました、けど。」





A「話を聞いていると、やはり、取り戻すのは難しそうに感じる」


B「そう、ですね。本当に残念です、けれど。」


C「 ええ、そうね。その通りだと思う。」


B「え、急に冷静なご意見」


C「私だって子供のころからアイドルを見てきたのよ。落ち着いて考えれば、

  遥を取り戻すのは不可能に近い、って事ぐらいわかるわよ。」


B「ええー  」


A「まあまあ。そういうものさ。落ち着いたようで、本当に良かったよ。」


C「ありがとう。ここで話せて、なんかスッキリした。」


A「問題は、どうやって別の希望を見出すか、だが。」


C「そう。そこなのよね」





B「あの、それなんですけど、一つご提案が。」


C「なによ」


B「実は僕、小さいんですけど、ちょっとしたタレント事務所をやってまして。」


C「え?」


B「っていっても、動物の、なんですけどね。昔から、動物が好きで。

  動物とばっかり接していたから、人間の女の子との接点はないんですけど」


A「なるほど。」


C「納得したわ。」


B「え?どういうことですか?」


C「いいの。続けて?」


B「え、ああ。えーっと。まぁ早い話が、ウチで新規にVアイドルをやりませんか、

  って事です。」


A「なるほど。」


C「え。でも、扱ってるのペットモデルなんでしょ。」


B「そうです。でも、曲がりなりにも芸能プロダクションですから、

  どこにお願いすれば何が得られるかぐらいは調べればわかります。

  機材も揃えられます。ですが、ヴァーチャルアイドル活動のノウハウ。

  これだけは、そうそう得られるものではありません。」


A「なるほど。それで」


C「 私ってこと?」


B「そうです、アナタしかいません。幸いにも僕たちは、同じ女の子を好きに

  なった者同士。やりたいことは同じはずです。皮肉にも、遥ちゃんが路線

  変更をしたおかげで、純粋な彼女路線のVアイドルがちょうどいなくなりま

  した。ビジネス的にも、今がチャンスなんです。社内的な稟議は、

  特権も使いますが、キチンと皆を説得した上で進めていくつもりです。

  だから、どうか、お願いです。

  一緒に、アイドル活動を、して頂けないでしょうか。お願いします」


C「 私で、いいの?」


B「はい、あなたが良いんです。」


C「 私、アイドルから縁遠い人間なんだよ。」


B「いいえ、あなたほど私が求めるアイドルに近しい人間はいません。

  だからお願いしています。」


C「 私、一度失敗した人間なんだよ。」


B「いいえ、それは失敗ではありません。私の中で、遥ちゃんは希望の光でした。

  ほかにも、同じような思いを抱いているファンが沢山いることを、

  僕は知っています。遥ちゃんを取り戻すことはできませんが、もう一度、

  遥ちゃんのような僕らの理想のアイドルになって頂けないでしょうか。

  どうか。お願いします。」





C「頭をあげて」


B「  はい。」


C「どうしよう。私、今人生で一番嬉しいかもしれない。そんな風に求められたの、

  生まれてはじめて。私は今まで、本当に無駄な人生を送ってきたんじゃ

  ないか、って、すごく後悔してて。」


B「無駄ではありません。貴方だから、遥ちゃんをあそこまで育てる事ができた

  んです。」


C「私、まだまだやりたいこと、沢山あったの。実は遥の企画の殆どは、私の持ち

  込みだったのよ。」


B「是非聞かせてください。そして一緒に育てていきましょう。遥ちゃんのような。

  いや遥ちゃんをこえる、素晴らしいアイドルを。」


C「そうね。本当に沢山あるんだよ。例えばね。









A「(小さく笑う) 本当、突然消えるなぁ。ついさっきまであんなに騒がし

  かったのに、今は打って変わってしまって。

  静寂に包まれる、というのはこういう事なんだろうなぁ。と、

  毎回、思い知らされる。」





A「僕がここにきて、果たして何年が経ったんだろう。西暦、聞けば良かったかな。

  怖くて、毎回聞けないまま終わるんだけど。」





A「僕の存在は、今どうなっているんだろうか。妻と子供がありながら、

  百恵ちゃんの電撃引退をきっかけにここに来てしまった僕を責めている

  だろうか。  確認する術はないけれど。」





A「結婚は、誰でもするものだ。時間はかかったが、今ではそう納得することが

  できた。でも、僕がここから出られないのは、きっと、ここに来た人を

  元の生活に帰す事に、新たな生きがいを感じてしまったからなんだろうな。」





A「瞳を閉じれば、いつでも 明るく歌うベストテンの百恵ちゃんが見える。

  そうやって僕はまた、ここに誰かが来るのを、百恵ちゃんと一緒に待つのさ。」




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【男1女1不問1】アイドルオタク墓地【コメディー・シリアス・現代ドラマ】 きよなが @kiyonagaga

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