第三局 初手天元①
僕は部活に行かなくなった。
講義のあと、すぐ下宿に戻り漫画を読み漁る。
古本屋で1冊10円の漫画を大量に買い、ひたすら貪る。
楽で、面白いものを延々と探していた。
ある日、とある天文学者の話を知った。
優れた碁打ちでもある彼は、こう言った。
盤の中に天元は一つしかない。
宇宙の中心がひとつしかないように。
たった一つのこの星こそが、もっとも価値のあるものであると。
当世の最強棋士に対して彼はそう啖呵をきり、自分の信じる一手を打った。
僕は頭をかち割られた。
そして中から溢れてきたのは、東さんの言葉だった。
–––––––––– 僕もね、そのプロ棋士を同じことを思うんだ。
自分自身が美しいと信じる一手を打ちたい。
その一手一手の積み重ねで勝利を掴みたい。
それから僕は、初手天元を打ちまくった。
今まで唱えていた念仏の代わりに、僕は対局中ずっとこう思っていた。
効率が悪い?
知ったことか。
俺はここに打ちたい。
この石の並びが美しいと思う。
だからこそ、自分が良いと、美しいと信じる一手一手で、全力で勝ちに行く。
たとえ何百局、何千局負けても絶対にその次は、勝ってみせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます