第三局 初手天元①

僕は部活に行かなくなった。



講義のあと、すぐ下宿に戻り漫画を読み漁る。

古本屋で1冊10円の漫画を大量に買い、ひたすら貪る。


楽で、面白いものを延々と探していた。




ある日、とある天文学者の話を知った。

優れた碁打ちでもある彼は、こう言った。



盤の中に天元は一つしかない。

宇宙の中心がひとつしかないように。

たった一つのこの星こそが、もっとも価値のあるものであると。


当世の最強棋士に対して彼はそう啖呵をきり、自分の信じる一手を打った。




僕は頭をかち割られた。


そして中から溢れてきたのは、東さんの言葉だった。


–––––––––– 僕もね、そのプロ棋士を同じことを思うんだ。

自分自身が美しいと信じる一手を打ちたい。

その一手一手の積み重ねで勝利を掴みたい。



それから僕は、初手天元を打ちまくった。

今まで唱えていた念仏の代わりに、僕は対局中ずっとこう思っていた。



効率が悪い?

知ったことか。

俺はここに打ちたい。

この石の並びが美しいと思う。


だからこそ、自分が良いと、美しいと信じる一手一手で、全力で勝ちに行く。

たとえ何百局、何千局負けても絶対にその次は、勝ってみせる。

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