その後
今は六月の二十日、月曜日の午前10時頃。
私は病室の椅子に座っていた。
『おばあちゃん。今日はね、プレゼントがあるの!』
『あら、嬉しい。何をいいただけるのかしら?』
おばあちゃんは試すような口調でそう言った。
『ふっふーん!それはねー。』
私は椅子の横に置いてあったお気に入りのショルダーバッグから意気揚々と
おばあちゃんに渡すための、キラキラと光る極薄の円錐状の物体を取り出す。
『じゃーん!金メダルだよー!しかも、二枚!』
私は両方の手に一個ずつ取り出したメダルを持ち、
腕を左右斜めに伸ばしVの形を
作っておばあちゃんに見せた。
『あら!すごいじゃない!おめでとう、彩ちゃん!』
おばあちゃんは顔を破顔させ私を褒めてくれた。
私はそれがとっても嬉しくて、口角を上げる。
『おばあちゃん、じっとしててね!今掛けるから。』
そう言って私は二枚のメダルをおばあちゃんの首に掛けた。
おばあちゃんはニコニコして『ありがとうねぇ。』と言った後に
『けど、いいの?彩ちゃん、これが欲しかったのでしょ?』
と聞いてきた。
『もちろん。
でも、それは最初からおばあちゃんにあげるのが目的で言ってたことだから。
おばあちゃんが病気との戦いに勝てますようにって。』
私が素直な気持ちを伝えるとおばあちゃんは、
『ありがとう、彩ちゃん。とってもとっても嬉しいわ。』
と目元を潤ませながら言った。
『このメダルね、二人三脚で獲ったの。
それでペアの子がくれたの。
だから二つあるんだ。』
『そうなの。』
『うん。こんな風な結果を残せたのも
おばあちゃんのおかげだよ。
本当にありがとう。』
『ふふふっ。
私はなんにもしていないわ。
彩ちゃんが諦めずに頑張ったからこその結果よ。』
おばあちゃんはそう言いながら頭を撫でてくれた。
不意に今までのことが思い出されて思わず涙が出てきた。
おばあちゃんは私が泣き止むまで『本当に頑張ったね。偉いよ。』
と言いながら頭を撫でてくれた。
涙を止める事が出来た後、私はしばらくの間、
余韻に浸っていた。
ふと時間が気になった私が病室にある丸時計に目をやると、
長針と短針が12の数字を指していた。
直後、私は慌てておばあちゃんに別れを告げてから病室を出た。
病院の透明なガラスの自動ドアを抜けてから自分の通う中学校の方へと
足速に向かった。
今日は友達と約束をしていたからだ。
『よう。東雲。』
中学校の正門の前に着くと友達の一人、如月くんが先に着いていた。
昨日は体育祭だったので今日は振り返り休日。
当たり前だが私も彼も私服だ。
私は辺りを見回し最終的に彼を見て聞く。
『あれ?胡桃ちゃんは?』
『しらね。寝坊じゃね?』
彼はめんどくさいという雰囲気を纏いながら言った。
しかし私はもう彼のこんな態度にも慣れていた。
あの出来事の後、彼は放課後の練習に
付き合ってくれるようになった。
その理由について、
彼は決して口に出したりしなかった。
きっと言うのが恥ずかしかったのだろう。
やはり男子というのはプライドが高いのだろうか。
私の中に明確な答えは出なかった。
それからはほぼ毎日、放課後に練習をした。
胡桃ちゃんも律儀に毎回付き合ってくれてとてもありがたかった。
その努力が実って、
私たちは体育祭の二人三脚で対戦相手に圧倒的差をつけ
一位を取る事ができたのだった。
『如月くん。メダルありがとね。おばあちゃんすごく喜んでた。』
私は彼をまっすぐ見つめて笑顔になり、お礼を述べた。
『別に、気にすんな。俺はいらねーもんをお前に押し付けただけだから。』
彼はそう言うとそっぽを向いてしまった。
この1ヶ月近い期間の中で彼について一つ。分かった事がある。
それは照れ隠しをすると顔を背けると言うこと。
私はこちらを見ない彼の顔が紅潮しているのを
想像しながら相手に聞こえないように小さく吹き出した。
私は彼の横顔をニコニコしながら見つめ、
胡桃ちゃんを待つのだった。
小説を書く練習 題名 二人三脚 赤星 @antanium
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