結果

本気で走ったからか、小さく肩で息をしている如月くんが

息を整えながら、胡桃ちゃんに近づき、結果を聞く。


『俺、何秒だった。』


私も胡桃ちゃんの方に近寄って彼女の口が開かれるのを待った。

数秒の時が流れたのち、彼女がストップウォッチを控えめに

見せつけながら言った。


『6.5秒だよ。』


すると彼は小さく舌打ちをし、ため息をついた。

私は両手を天に掲げながら飛び跳ねて喜びを全身で表した。

それでも抑えきれず、胡桃ちゃんに抱きついたら

一瞬バランスを崩しそうになりながら、彼女も笑って一緒に喜んでくれた。

一時の間、勝利の余韻に浸った私は、彼の方を向き言った。


『如月くん。約束、分かってるよね?』


彼はぶっきらぼうに


『ああ、分かってる。これからは二人三脚の練習に付き合えば良いんだろ?』


と言った。

しかし、私はそれを否定した。

それを聞いた如月くんは驚いた表情を見せた。


『私言ったよね?この勝負に勝ったら私の言う事を一つ聞いてもらうって。』


私の言葉に、彼は確認するように、


『だからそれは二人三脚のことだろ?』


と繰り返した。


『確かに私の望みはそれだけど、この勝負の結果で如月くんを無理やり

練習に付き合わせても意味なんて無いと思うの。』


私は目線を落としながら言い、話を続ける。


『だって二人三脚は息を合わせないといけない競技だもの。

嫌々やったて良い成果は得られないわ。だからね、』


私は一息空気を吸った後に、彼を一瞬だけ見て、体を前に折りながら言う。


『君の事もっと教えてください。』


数秒の沈黙の後、急に頭上の方から、


『な、ななな、何言ってんだお前。』


と言う上擦った声が聞こえた。

その声に頭を上げると、如月くんの顔は紅潮していて、

胡桃ちゃんは口をあんぐり開けて固まっていた。

私は二人の反応に驚きつつもさらに伝えたい事があったので開口した。


『私ね。正直な所如月くんにかなり怒ってた。

だって、何回もお願いしたのに一度も聞いてくれないんだもの。

でもね、おばあちゃんにアドバイスをもらって、胡桃ちゃんと一緒に考えて…、

私なりにも色々考えた。

それでね、今朝たまたま見たアニメを見たときに私、答えに気づいたの。』


私は目に力を込め、続けた。


『私、自分のことばかりで、如月くんの気持ちを考えてなかったって。』


自分の至った結論を話し、『だから、』と文をつなげて


『まずは君の事を知ろうと思ったの。』と終わらせた。


再び、数秒間の沈黙が訪れた。

自分の喉が渇いているのを感じて緊張しているのだなと気づいた。

私が真剣な眼差しで彼を見つめていると堪え切れないといった様子

で如月くんが吹き出した。


『あはははっ!』


と笑う彼を見て私が

『何がおかしいの?』

と怒気を含んだ声で話すと

彼は笑いながら息も絶え絶えに返事をした。


『悪りぃ悪りぃ。だってよ、全体的にいい話なのに

最後がアニメ見て気付くって…。クククッ。』


彼は尚も笑いを堪えながら声を抑えて肩を小刻みに震わせていた。


『そ、そんな事、今はどうでもいいでしょうが。』


私は動揺しながら

照れ隠しのように声を大きくして

彼の発言に異を唱えた。

しかし彼は止まる様子もなく


『だってよっ、だってよっ。』と身体を揺らしていた。

どうやらツボに入ったらしい。

私が呆れていると、

いつの間にか近づいてきていた胡桃ちゃんが


『私は彩花ちゃんらしくて好きだよ。』


とフォローを入れてくれた。

彼女の優しさがこの時ばかりは恨めしかった。

私が返事をせずに黙っていたら、

彼女は慌てた様子でさらに言葉をかけてきてくれた。


私のさっきまでの真剣な思いや、緊張はいったい…。

方や、笑い転げる男に、もう一方はアタフタしながら

私に慰めの言葉をひたすら掛けている。

もう笑うしかなかった。


その後、私達は3人で一緒に下校した。

帰りの最中も如月くんは私の発言にツボり続けて

私の顔を見るたびに笑っていた。

そんな彼を見て私は心の中で呟くのだった。


『めんどくさい男ね。』と。




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