勝負2
放課後。
私と
学校の校庭にいた。
『昼休みに言った通り50メートル走で勝負するわ。』
私が如月くんを見て言うと、
『ハンデがあるって言ったよな。それはどんなのだ?』
と仏頂面で言ってきた。
昼休みの事を根に持ってるのね。
そう思いつつハンデについて説明する。
『単純なことよ。如月くんの走った記録にプラス3秒してもらうだけ。
これがハンデよ。』
『おう。分かった。』
覚悟を決めたのか、勝負を早く終わらせたいのか、
彼は素直に私のハンデを受け入れた。
私は白い石灰線の先、ゴールの方を見ながら話を続ける。
『ゴールのところに立っている胡桃ちゃんの合図で、
スタートよ。』
私は言いながら、右手を使って、下から上に振り上げる動作をした。
それに対して如月くんは黙って頷き。
胡桃ちゃんは、
『が、頑張るよ。』
と少し緊張した声で言った。
私が彼女の緊張を和らげるため、笑顔を向けると、
彼女も同じように笑顔で返してくれた。
『後は、先生から借りてきた
このストップウォッチでタイムを測って記録の良い方が勝ち。』
そう言って私は、さっき先生に借りて来た
ストップウォッチを見せ、『胡桃ちゃん、お願い。』と言って手渡した。
胡桃ちゃんが頷きながら受け取ると、如月くんが両腕を腰に当てて、
『わかった。じゃあさっさと始めよーぜ。』
と言って急かした。
それから直ぐ、
私は一番左の1レーン。
如月くんはそれを見守る形で少し離れた位置に。
胡桃ちゃんが50メートル先のゴールの辺りに着いた。
『胡桃ちゃーん!準備ができたらスタートの合図おねがーい!』
私の声が届いたみたいで、彼女が両手の先を頭の上で繋げて輪っかを作った。
彼女は4レーンと5レーンの境目の辺りに体を置き、体の側面を見せた。
少し屈み、左の膝に左手を乗ながら校庭の砂を見つめる体勢をとっている。
右腕を地面に向けて斜めに伸ばし、口を動かす。
声は聞こえないが、『位置について。』
と言っているのが分かった。
私は腰を落として、左膝と両手を地面につけ、
クラウチングスタートのポーズをとり、重心をやや前に傾けた。
彼女の次の言葉が見える。
『よーい。』
私は腰をあげ、足に力を込める。
『ドン!』
彼女の右腕が振り上げられるのと同時に、
私は全身を前へと押し出した。
風を切っている感覚を感じ、
私の体がゴールへと向かって行く…。
勝負の内容をハンデ付きの50メートル走にしたのには二つ理由があった。
一つ目は、彼と勝負するに当たってどちらか一方が圧倒的に有利というのを
避けたかったから。
二つ目は、勝負を受けてもらい易くするためだ。
如月くんの足が速いと言うのは知っていたので、
彼の得意なことなら勝負を受けてくれるかもと思い使った。
ちなみに、3秒のハンデについてはもっと単純で、
私のタイムから如月くんのタイムを引いたら、ジャスト3秒だったというだけだ。
胡桃ちゃんの姿が直ぐ目の前に迫っている。
私は全速力を出したまま、彼女の前を通り過ぎた…。
『はぁ、はぁ、私、何秒だった?』
『9.4秒だよ。』
やった!新記録!
私は心の中でガッツポーズをしながら
胡桃ちゃんにお礼を言った後、レーンから離れ、彼の方を見た。
如月くんはもう準備に入っているようで、いつもとは違う真剣な表情を
していた。
胡桃ちゃんがさっきと同じ体勢でスタートの準備を促す。
彼が私と同じようにポーズをとった。
胡桃ちゃんの『ドン!』の声とともに彼は駆け出し、
ものすごい速さでゴールまで駆け抜けて行った…。
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