最終話

「お兄ちゃん、良かったね!」

俺の着替えを取りに行ってた杏奈は病室に入り俺と美希の顔を見て安心したような笑顔でそう言った。


「色々と助けてくれてありがとう」

「杏奈の所に生まれ変われて良かったと思ってるよ」

俺が言うと杏奈は瞼を押さえながら

「そんなこと言ったら泣くしかないじゃないの!?」

「女心をもっと学ばなきゃ美希さんに苦労かけるわよ」

「バカっ!」

最後にそう言って吹き出すように笑った。


その後、暫くして病室を訪れた杏奈の母親と美希の両親にこれまでのことを3人で説明した。


「そうかぁ、君がバロンなのかぁ」

「これからも美希のことを宜しく頼むよ!」

最初は半信半疑で聞いてた美希の父親も説明を聞き終えた時には納得した顔で俺にそう言った。


「人間になったんだからバロンはちょっと失礼じゃない?」

美希の母親がそう言うと杏奈の母が

「家では本人の希望でいつもそう呼んでました」

そう言いながら笑う。


結局、俺は犬として飼われていた美希の家に父親の提案で戻ることになった

寂しそうな表情を浮かべた杏奈だったがすぐに賛同する。


「俺は人間になってしまったし迷惑なのでは・・・?」

住み慣れたあの家に戻れるのは嬉しいが犬ではなく、人間として戻ることに不安を口にした俺に

「君がバロンならば美希が連れ帰ったあの日から我が家の大切な家族じゃないか」

「それに美希には必要な存在なんだから何も遠慮することなど無いんだよ」

美希の父親が優しくそう言って俺の肩を抱くと美希の母も何度も頷きながら美希を抱き寄せた。


「じゃあ婿入りってことで息子を宜しくお願いします」

明るく言った杏奈の母親の冗談に全員が笑った!


面会時間が過ぎ、杏奈は

「明日の退院には見送りに来るね」

元気に手を振りながら母親と一緒に帰って行った。


「それじゃ私たちもバロンが住みやすいように準備しなきゃいけないわね!」

美希の母親は父親を急き立てるように帰って行く・・・

残された俺と美希は顔を見合わせて笑った。


翌朝になり退院手続きを済ませた俺はわざわざ病院に来てくれた杏奈に

「杏奈が居てくれなかったら俺はもうこの世界に存在すらしていなかっただろう・・・」

「これからは杏奈の優しい兄として生きて行くことにする」

そう言って強く抱き締めて言った

「俺たちはこれからもずっと家族だから困った時は遠慮なく頼ってくれないか?」


胸の中で大きく頷いた杏奈は突き飛ばすように離れると

「私だけじゃなくてバロンも頼っていいわよ」

「さぁ、バロンをずっと待ち続けた美希さんを待たせないでさっさと行きなさい・・・お兄ちゃん!」

そう言って手を振ったがその瞳は微かに潤んでいた。


それに気づかぬ振りをした俺は杏奈が持ってきてくれたリュックを持ち上げると軽く手を挙げた


自分が持つ荷物はたったこれだけしか無いがこの胸には抱え切れないほどの責任と繋がりがある!

気を利かしてくれたのであろう、少し離れた位置に立った美希のもとへ俺は歩き出した。



最後まで読んで頂いた皆様に感謝致しますm(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「月は欠けて変われど同じ月」 新豊鐵/貨物船 @shinhoutetu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る