第21話

この真っ白な天井はどこかで見た記憶が有る


翔太の身体から追い出された俺は行く当ても無い世界を消え去る為に彷徨っていたんだった

そんな俺を呼び戻してくれた美希・・・

身体に重みを感じた俺が見てみるとそこには美希の姿があり、こちらを向いた姿勢で眠っていた。


右手はしっかりと彼女に握られていた

「ありがとう・・・」

どうせ届かないだろうと小さな声で呟いた俺の声に反応したのか、彼女は目を開けると俺の頬を優しく撫でながら

「お帰り、バロン」

ひと言だけ言うと泣きながら俺の胸にしがみついた。


もう離したくは無いという意思が込められ強く握られた手と震える肩が俺に彼女の気持ちを伝えていた!

もと飼い犬だった俺だが今は人間として美希に伝えたいと思った俺は彼女が落ち着くのを待つと半身を起しながらベッドに座り彼女の両手を握った。


「俺の姿はあの頃と変わってしまったけれど君が雨の日に拾って飼ってくれたバロンという犬なんだ」

いきなりこんなことを言われて戸惑うだろうと予想していたのだが彼女は頷くと

「杏奈さんからあなたのことは彼女の事情も含めて全部、聞かせてもらいました」

「彼女があなたのことを愛してるということも・・・」

「そしてその想いも全部含めて私に叶えて欲しいと!」

そこまで話した彼女は間を置くと

「あっ、ごめんなさい」

「私はバロンとこんな風に話せることがずっと夢だったから緊張しちゃって・・・」

そう言うと俺の両手を強く握った。


それは彼女が自分の気持ちを上手く伝えることが出来なくなった時の癖で無言になってしまう前兆みたいなものだ。


「言葉にしなくても君の気持ちは俺にわかるからそんなに緊張したり慌てたりしなくていいんだよ」

掴んだ手を握り返しながら元気づけるように言うと彼女は照れ臭そうに何度も頷いた。


「俺は犬だった頃、君に自分の意思を言葉で伝えられたらどんなにいいだろうといつも思ってた」

「でも人間に変わってみて言葉だけじゃ何一つ伝えることが出来ないことが何となくわかったんだ」

「君と初めて話した時に俺の気持ちは君に全部、伝わっていたことがわかってとても嬉しかった!」

「俺は犬で君は人間、自分でそんな境界線を引いてたんだ」

「君はそんなことなど気にもせずに俺のことを大切にしてくれていたことを知って恥ずかしかった・・・」

俺はそう言って彼女に謝ると深呼吸をした後に彼女の瞳を真剣な目でみつめた。


「俺は美希を愛してる!」

心の中から絞り出すような気持ちで言った。


その言葉を聞いた彼女は瞳を潤ませながら

「あなたは私の心の闇を照らしてくれる月みたいな存在でどんな時も勇気をくれた」

「そしてあなたは私の命を助ける為に自分の命を捨てた」

「私の大事な月は欠けてしまい暗闇に戻ってしまったけれど姿を変えて私をまた明るく照らしてくれる!」

「私にはあなたがどんな姿をしていようと一番、大切な存在であることに変わりはないの・・・」

「私もあなたを愛しています!」

そう言った美希は俺に抱きつくと声を上げて泣いた。


俺は犬ではなく人間として愛し愛されることを知った。


美希はそれほどに愛しくて大切な存在だったのだ!

自分の過去を懐かしんだり人間の世界を羨んだりしながら生きることに答えを探し続けていた俺は今、この瞬間に答えをみつけ出したのだ。


彼女を強く抱き締めた俺は犬であった頃に彼女がいつもしてくれていたキスをした


それはペットと飼い主では無く、心が通い合った者同士のとても長いキスだった。

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