第20話
「あなたは誰なの!?」
翔太を押し退けようと必死でもがきながら美希が訊くと
「おいおい、さっきまで泣きながら心配してたのに今度は誰なのって一体どういうことだよ?」
「お前が探してるのはあのワンちゃんなのか?」
「あいつは今頃、行く当ても無くどこかを彷徨ってるかも知れないな・・・もしかして、もう消えちまったかな!?」
嘲笑うかのように答える翔太が隙を見せた瞬間、美希は渾身の力を込めて突き放した。
仰向けに転がされた翔太はよろめきながら立ち上がると怒りに任せて美希の頬を激しく叩いた勢いでまた床に転げ落ちてしまった。
まだ身体に戻ったばかりで順応していないのだろう?
操り人形みたいなぎこちなさで再び立ち上がると逃げる美希をゆらゆらとふらつきながらも追い掛け始める
殴られたショックと恐怖で動けない美希は追い詰められ逃げ場を失いつつあった。
ガコッ!
翔太の背後から振り上げた回転椅子で杏奈が思いっきり殴りつけた音と共に膝から崩れ落ちた翔太はうつ伏せで床に倒れたまま、動かなくなった。
「美希さん、早く呼び戻して!」
「あなたの声ならバロンはきっと帰って来る」
「行き場を失くしたバロンを早くここに呼び戻して!」
懇願しながら泣き叫ぶ杏奈に促されて美希は倒れた翔太の傍らに這い寄ると呼び掛けた。
「バロン・・・聴こえてる?」
「あなたに出会ったあの日からずっと心の支えだったの」
「やっと巡り合えたのにこんな所で消えないで・・・」
「お願い、帰って来て!」
自分のもとに戻って来ることを信じているかのようにさっきまで恐怖の対象であった翔太の身体にすがり付くと想いの全てをぶつけるように叫んだ。
何も見えないし何も聴こえない真っ暗な世界で自分の意識や存在さえ感じることが出来ぬまま、漂っていた・・・
そこは自分がどんな状態なのかもわからず、何かをしなければならないという目的意識も無く無気力に浮いている感じがするだけの空間だった。
そんな俺に何かが聞こえたような気がした!
やがてその声はハッキリとした声になり眩しいほどの光とともに俺を引き寄せて行く!
「そうだ、俺はあの光り輝く世界に何としても帰らなきゃいけないんだ!」
そう強く思った瞬間、美希の顔が俺の目の前にあった。
「助けてくれてありがとう・・・」
俺はそんな彼女にそう言葉を掛けたつもりだったのだが自分の声として美希には届かなかった
俺の目をじっとみつめていた彼女は俺であることに確信を抱いたようにそっと頬を当てながら強く抱き締めた。
すぐに彼女の隣りに駆け寄って来た杏奈が頭を撫でながら何か言っているのだがその言葉は聴こえない・・・
起き上がろうとしてみたがダメだった。
俺は翔太の身体に再び戻って来たことで感覚が麻痺していることを知った。
意識が身体にゆっくりと染み込んで行くような感覚を感じながら俺は再び意識を失くしてしまった。
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