第19話

駅前で嬉しそうに手を振りながら俺たちを出迎えた美希は眩しいほどの笑顔で駆け寄って来た!


他人に聞かれたとて妄想を語り合う変人にしか思われないだろうが杏奈の提案で3人は駅前のカラオケボックスへと向かうことにした。


美希と杏奈は俺が嫉妬してしまうほど仲が良い

それでもさすがに俺が飼い犬であったバロンだと言えるはずも無く、俺が告げねばならぬことだ。


ほんの数分で辿り着くその距離がどんな未来に繋がって行くのか想像も出来ないが、覚悟を決めている俺にとっては十分に気持ちを落ち着かせる距離であった。


部屋に入り、美希を先に座らせた杏奈は話し易い程度に流れる音楽のボリュームを絞り、彼女の隣りに座るよう俺に勧めるとやや離れた位置に腰掛けた。


何も状況を把握出来ていない美希はやや戸惑ったような表情を見せたが、その場を察したらしく

「私に何か大事な話があるんですね?」

俺の方に向き直り姿勢を正すとそう言った。


「実は前回、君が飼ってたバロンという犬の話をした時に動揺した俺は嘘をついてしまったんだ・・・」

「そこに居る杏奈を含めて全ての出来事を話さないとナゼこんなことになったのかを説明出来ないし、それを君に話すことは杏奈にとって辛いことになる」

「君が杏奈を今とは違った目で見ないことを願った上でこれから話すことを聞いてくれないか?」

言葉を選びながらゆっくりとした口調で俺は話し始めた。


「わかりました」

「杏奈さんは私にとっても大切な存在です!」

「彼女のお陰で私は辛く重苦しい毎日から救われて本当の笑顔を取り戻すことが出来ました」

「何を聞いても彼女への信頼が変わることはありません!」

美希は離れた場所でうつむいている杏奈にも聴こえるようにハッキリとやや大きな声でそう言った。


その言葉にこちらを向いた杏奈に対し美希は微笑みながら安心させるように頷くと

「大丈夫ですから続きを話してくれませんか?」

真剣な表情で俺の目を見ながら促した。


美希には俺がバロンであることがわかっているのだろう?

澄んだ瞳はそれを証明するかのように潤んでいた


俺が彼女に話そうとしたその時である!

あの激しい頭痛と悪寒が突如として俺に襲い掛かった。


椅子から転げ落ちるように倒れて苦しみだした俺に驚いた美希は叫ぶような大声で言った

「バロン、ねぇバロン!どうしたの!?」


あの日を再び繰り返すことは出来ないと迫り来る翔太の怨念を退けようとする俺に

ーもう時間が無いんだ、今日こそは返してもらうぞー

この身体の持ち主であろう翔太の声が不気味に響く・・・

抗うにもどうすれば良いのかさえわからない俺は吐き気を堪えた口から悲痛な呻き声が漏れる。


大粒の涙をこぼしながら俺の名前を叫び続ける美希と咄嗟の判断で音楽のボリュームを上げた杏奈の姿が段々と薄れて行った俺は意識が遠のき始めてしまう・・・


「あの小賢しい犬のお陰で予想外に邪魔されてしまったが生き返った途端にこんな女が目の前に居るとはちょっと気が利いてるじゃないか」

突然の変わりように茫然とした美希を片手で引き寄せて抱き締めながら上体を起こすと

「あの時はスゲー苦しかったぜ」

「罰を受ける覚悟はちゃんと出来てるんだろうな?」

恐怖で震える杏奈にそう言った翔太は笑みを浮かべた。

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