非三密会議
小石原淳
非三密会議
二〇二〇年の夏を迎えたが、例の感染症は勢いを増すでもなく、衰えるでもなく、何となく世間にはびこっていた。
諸外国が収束・終息に向かっている中、これはまずいどうにかせねばならぬと喫緊の課題となり、キャンペーンが打たれる運びとなった。国民に非三密を徹底させるためにコマーシャルをテレビやネットを問わずに、どんどん流そうというものである。
予算の大枠や流す期間などが決まり、リモート会議の議題の中心は、誰を起用するのが効果的かという点に移っていた。
「まず最初にご注意を。元々密教用語に『三密』があるのですが、宗教や信仰と政府の広告とを殊更に結び付けるのは避けるようにとのお達しが出ています」
「まあ、やむを得ないな」
「桂文枝師匠が三枝のままだったらなあ。三つながりで行けたかも」
「突然、何を悔やんでるんだ」
「三枝師匠が三密な状態を見て、『およよ』言うてるだけで、関西方面には結構受けると思いまして」
「そんな限定的な。もっと平均的に人気があって知名度抜群な三のつく有名人がいるだろう。三浦友和さんとか北島三郎さんとか」
「あんまりビッグネームでも、お上が言っているのと同じような印象を持たれかねないんじゃないかね? ちょっとは砕けたところのある人がいい」
「三又又三さんとか?」
「砕けすぎだ。三が二つあっても駄目」
「あ、少し捻ってサザンオールスターズはいかがですか」
「捻ってって……サザンが9か?」
「はい。物凄く砕けた感じですし」
「却下。非三密を訴えるのにバンドはまずかろう」
「でも、バンドメンバーがソーシャルディスタンスを守って演奏しているとこは絵になるかも」
「それもそうか。サザン云々は置くとして、多人数だからと言って切り捨てるのは勿体ないな」
「そういった逆の線を狙うのなら、明石家さんま師匠も」
「君は関西から離れなさい。だが一応、理由を聞こうか」
「さんまと三で被るし、唾を飛ばしてしゃべくるイメージのさんま師匠がマスク着用で大人しくしゃべるとギャップで話題になるかと」
「……意外と悪くない。が、正直言って、お笑い芸人は人気と不人気が同居してるのが多くて難しいんだよ」
「じゃあ、『三瓶です』の三瓶もだめなんですね」
「『三密です』って言わせるってか。語呂が悪いな」
「月亭八光もだめですね」
「はちみつって三密より増えてるじゃないか。悪化するイメージがある。そもそも知名度に問題あるような」
「3のときだけあほになる人もだめなんですね」
「あー、いたな。名前が思い出せない。ていうか何で君も名前を出さないんだ」
「今現在どの芸名を使われているのか知らないもので」
「まあいい。三密のときだけあほになるというのはコンセプトには合っているから、保留。ギャグだけ借りるという手もある」
「月亭八光と聞いて思ったんですが、この辺でちょっと3から離れてみませんか」
「ふむ。誰がいいと言うんだね」
「やっぱり、壇蜜さんがいいんじゃないかと思うんですよね」
「どうしてですかっ? やっぱりって何?」
「うわびっくりした。今まで静かだったのに、急に早口でまくし立てんでくれ。会議に関わる唯一の女性なんだから発言は慎重に頼むよ」
「慎重にも慎重を重ねての発言です。――何故、やっぱり壇蜜さんなんでしょうか?」
「そりゃあ、男性にアピールするし、名前も三密と壇蜜で被っていてキャッチーなコピーが作れるんじゃないかと」
「ああ、もう。そういう貧困な発想が国を傾けるんです。セクシーな女性を起用って発想が中年男性そのもの。さっきから出ている駄洒落も世間がうまくはまってくれればいいですけど、受けなければ親父ギャグ扱いで物笑いの種になりますよ」
「そこまで言うのなら君は、さぞかしよい案を持っているんだろうね」
「……三浦春馬さんがいいなと思っていました」
第一回の会議を終えて、とりあえず三案が残った。
・三密になるとあほになる
・マナカナ(三倉茉奈と三倉佳奈)が登場。三密状態にならないよう二人が一人になる
・ヴァーチャルアイドルを新たに創出する。初音3ク的な。仮想空間なら三密も平気
おわり
*三浦春馬氏のご冥福をお祈りします。2020/07/18
非三密会議 小石原淳 @koIshiara-Jun
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