誰かに影響を与えるということ

主人公である「僕」と、独特な雰囲気の友人である「彼」の交流をニュートラルな筆致で描きます。ニュートラル、という言葉はもしかしたら語弊があるのかもしれませんが、作品全体を覆うどことなく静謐な雰囲気は、この不思議な友人を際立たせているように思うのです。
主人公はその魅力的な友人に大いに感化され、特に「暴力」についての捉え方は強く影響を受けます。ほぼ全面的に彼の考えを受け入れているように見えますが、そこに崇拝とか謙遜といった態度はなく、あくまで対等な友人として、自分でも納得できるから受け取るんだ、という健全さを感じます。
絡みつくような、従えさせるような「影響」ではない、友人同士の信頼関係を、手入れの行き届いたきれいな文体で語る、端正な作品です。