第44話
カリスたちは運命の生配信を終えた。
「上々だ。これでユーゼが狙われることもないだろう」
「余は……余は、女装の趣味など無い!! しかも、こんな破廉恥な格好!!」
「バズったもん勝ちだから、仕方ないね」
マモルはいかにも満足そうだ。
「陰謀、元国王、ぼくっ娘、美形、おまけに歌も上手い。これは完璧ですね」
ホクトも感心している。
「これから、カリスさんとユーゼさんはどうするんですか?」
ミナミは機材を片付け始めていた。
「しばらく、どこかのホテルに滞在するよ。ユーゼはすぐにでも亡命が認められるだろうから、日本政府に身柄を預ける」
「カリスさんは……、グライプ共和国に戻れるんですか?」
「さあ、どうだろうな……。デスラ殿に逆らったわけだし、下手すると、またお尋ね者だな」
「ちょっと、これ見てよ」
マモルはグライプ共和国政府のホームページを開いていた。
『YouTubeの以下動画に出演している人物は、グライプ王国時代の国王ユーゼ=グライプに間違いないと思われます。現在、詳細確認中であり、追ってご報告申し上げます』
「あっさり認めましたね」
「ああ、本人がここにいる以上、どう否定しても無駄だからな」
その時、カリスの携帯が鳴った。
「……よくも謀ってくれたのう。ニコラウス」
デスラだった。
「申し訳ありません。わたしにはこうするしかありませんでした」
「まあ、やってしまったものは仕方ない。あとはこの状況を何とか利用するだけじゃ」
「——と言いますと?」
「ユーゼにはグライプの観光大使になってもらう。YouTubeやSNSで国をアピールさせてくれんか?」
「よろしいのですか?」
「再生数を見よ。すごい数じゃ。すでに何本ものネット記事やブログで取り上げられておる。利用しない手はない。産業の遅れたグライプにとって、一番の売りは観光じゃからの」
「わかりました。そのようにします」
「……それから、お主は戻って来い。勝手な行動をした以上、なんらかの処罰は受けてもらうが、お主という人材を失うわけにはいかん。今後は、魔物対策局局長兼外交局局長に加えて、広報局も新設するから、その局長も務めてもらう。忙しくなるぞ」
「はい……、わかりました。ありがとうございます」
カリスは電話を切った。
「誰からですか?」
ミナミが心配そうにカリスの顔を覗き込んだ。
「デスラ殿だった。お咎めなしですんだよ」
「良かったぁ——」
「あなたもです。今後はグライプの観光大使をしてほしいと言ってます」
ユーゼはマモルにナース服を押しつけられていた。
「そ、そうなのか? 余も国のために働けるのか?」
「ええ。やっていただけますか?」
「もちろん。任せておけ……。でも、女装はしなくてもよいであろう?」
「それは……、マモルをプロデューサーに任命するので、彼の指示に従ってください」
「ええ?!」
「任してよ。よろしく、ユーゼちゃん」
「余はもう女装しないと言っておろう!」
「さて——」とホクトが立ち上がった。
「カリスさんもユーゼさんも無事が確定したみたいだし、お祝いでもしましょう。買い出しに行ってきますよ」
「わたしも行く」とミナミも続く。
「それなら、わたしが行ってこよう。これでも一国のVIPだから、ご馳走できるくらいの給金はもらっている。ミナミ、手伝ってくれるか?」
「はい!」
カリスとミナミはマモルの部屋を出た。
「良かったですね。わたし、ホッとしました」
「みんなが協力してくれたおかげだ。ありがとう」
「お兄ちゃんとマモルくんは色々と頑張ったけと、わたしは何もしてないです……」
「そうかもしれないが、わたしはミナミが一緒にいてくれて嬉しかった」
「えっ、え? そうなんですか? そんなこと言われると、なんか照れちゃいます……」
カリスは、その姿が愛おしいと思った、
「ミナミ、前々から、言おうと思っていたんだ。わたしは君が好きだ。ずっと、一緒にいてほしい」
ミナミは目を丸くしてカリスを見つめた。
「……わたしも、カリスさんが好きです」
「手を繋いでもいいか?」
「——はい」
戻ってホクトたちに報告したら、一体どんな顔をするだろうか。幸せな気持ちが、心の奥からとめどなく溢れてくる。
「カリスさんって、すごいですよね。初めは魔物対策局の局長さんでしたっけ? それから政府の仕事を辞めて——」
「NHB研究所の所長をして、お尋ね者になってからは冒険者」
「外交特使になって、今は魔物対策局と外交局の局長さんですよね」
「今度から、広報局の局長も加わることになった」
「えーっ、そんなの忙し過ぎます! わたしと会う時間あるんですか?」
「大丈夫、なんとかするよ」
マモルのマンションに戻るまで、二人のお喋りはずっと続くのだった。
魔物対策局カリスと異世界転生者(旧タイトル:異世界転生者がウザすぎる) @a5065478
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