8.2 かえでちゃん
殺した、と言っておいてなんですが彼らがすぐに死ぬわけではありません。
この世界に着いてからも、4人でそこそこの期間生き残れる算段も立っています。
私たちは普通の人間より、少しだけ高い能力を持っています。
私がこの世界に来たのは4回目です。
1回目。初めてこの村に来たとき。奴隷役でした。
少し体に違和感があったのです。若干鼻炎気味で、少し体調を崩していたはずだったのですが、こちらについた日は快調そのものでした。
とはいえ単に体の調子がいい、というだけです。そのときは新しい体験のほうに気が向き、大して気にとめませんでした。
2回目。また奴隷役でした。できればまた来てみたいと思っていたのでかなり興奮していた記憶があります。
今度は明らかに体が軽い。あれ、私こんなに早く走れたっけ? という身軽さです。それでも、楽しさに舞い上がった気持ちがそう感じさせてくれているだけかもしれません。
3回目。今度は勇者役でした。おかげで「王様」とも話ができ、有意義に過ごすことができました。
自分の体が変化していることを確信します。こちらで今体力テストすれば、かなりいい成績が残せそうです。相手が男子でも負ける気がしません。
そして極めつけ。
炎を出すことができるようになっていました。
こう、手を前方に突き出して集中すると、正面に火柱を横に倒したようなものが吹き出します。
どうもこの世界に来る度に、なにかしら身体能力が高くなったり特技が身についたりする、ということのようなのです。
他にもいろいろと王様とお話し、この世界がやはり本物で、もうどうにもならない状況であることも伺います。
一応こんな人間でもなにかできるのであれば力になりたい。
召喚に使う石をお借りし、逆に人を呼び出せば残った村の人は助かるのではないか、と。
この試みは失敗に終わります。
呼び出しても1日と持たず元の世界へ戻ってしまうようです。
私たちが呼び出された時と同じです。
石はもう素人目にも分かるぐらい輝きを失っていました。
もしも4人いっぺんに使うようなことをすれば、確実にその力を失って砕け散ることでしょう。
そして、村の人を助けるなどという善意などとは全く別に、自分の欲望のために実行に移したのが件の悪事です。
1学期の終業式。
同級生3人を死地へと誘います。
但し、あくまで軽い感じで。
「あの世界ってさ、体動きやすくなるよねー」
他の3人も同じようなことを感じていたのでしょう。俺の場合はさ、と話が盛り上がります。体の動きがよくなったことにはみんな気付いていました。
「3回目のときには火が出せるようになったんだー」
みんなが驚いて私をみつめます。
「3回目」をわざわざ付け足した上で、自分の獲得した魅力的な能力を伝えたのです。
3回行けば同じ事ができるようになるというものでもないでしょう。ですが、次に行くのが「3回目」のゆうくんと能登くんはこれでもう好奇心を抑えることはできないはずです。
同じく、すでに3回行っている桃ちゃんが「でも、」となにか言いかけるのを遮って、召喚の石を3人に見せます。
「この石があれば多分行けると思うんだ。夏休みになったらさ、4人で一緒に行こうよ」
夏休みになったら。
字面は余裕があるように聞こえますが、もう明日です。
それも午前9時に約束を取り付けます。
あくまで今までと同じように、ちらっと行って帰ってくる雰囲気で。
わざわざ用意なんてしなくていいんだよ、と。
私はゆうくんと桃ちゃんが準備万端整えて、この世界で美しく立ち回る姿が見たいわけではありませんから。
こうして、高校2年生の夏休みがはじまります。
私たち4人にとって最後の。
永遠に終わることのない夏休みが。
最低ですか? 反論する気はありません。
今こうしてこんな話をしているのも、懺悔しようなどという殊勝な心がけではありません。
単に頭の中を整理したかっただけなのでしょう。
さて。
お話はこれで一旦おしまい。
既にやってしまったことについては都合良く忘れることにします。
私はゆうくんが大好きで、桃ちゃんと仲良しで、能登くんが気に入ってくれているほんの少しだけ意地悪な女の子。
かえでちゃんです。
いんちき奴隷館 小鈴なお 🎏 @kosuzu_nao
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます