8.1 同級生を3人殺しました
木嶋かえで、高校2年生です。
今日、同級生を3人殺しました。
少しその話をします。
私たち4人は最近不思議な体験をしてきました。
昔の世界をかたどったテーマパークのような村です。
でも、作り物と片付けるにはよくできすぎた村。
何度か呼び出された私たちは、そこで奴隷と、それを助ける勇者という役を割り振られて一日を過ごすのです。
最初はびっくりしました。
……正直に言うと少し怖かった。
ひなびた村の雰囲気が真に迫りすぎていて、人が人として扱ってもらえないような空気がどことなく感じられたのです。
あまり作り込んでいるとまでは言えない、文化祭のお化け屋敷のようなやさしさ。何度か呼び出された日は楽しく過ごすことができました。
奴隷館のおじさんにはよくして頂きました。ああいう凡人と接していると安心します。
……おじさんを馬鹿にしているわけではありません。私と同じ普通の人、という意味です。私についてのみ、否定的な意味合いで使っている言葉であることは認めますが。
おじさんと私、能登くんは残念ながら凡人なのです。
ゆうくんと桃ちゃんと違って。
あの二人はおかしい。
公立の学校で中高と進学していくのが普通の土地柄です。私たちにとって、高校というのは学力や実技能力の高低で区切られる最初の社会です。
中学のときの感覚で言えば、だいたい似たような能力の子たちでグループを作っている。そのはずでした。
事実、入学当初は彼らとの差など気に掛けることはなかったのです。
……いや、こんな話を続けられても退屈なだけですね。そのうちどこかでお話しする機会もあるでしょう。話を変えます。
さっさと自分の汚い心に向き合わなければいけません。
仁川ゆう(にかわゆう)。
ゆうくんは私の彼氏です。
私と付き合いたいと言ってくれたゆうくんに、当初は少し上からみたような気持ちがありました。
私になついてくれる、気持ちの優しい男の子。
今となっては、この恋人としての関係がいつまで持つのかは分かりません。
一応私なりに抵抗はしてみるつもりですが、どこかの時点で彼は私への興味を失うことでしょう。
木崎桃(きざきもも)。
桃ちゃんは入学当初席が近く、すぐに仲良くなりました。まわりがぽかぽかと暖かくなる、柔らかい人当たりの可愛い女の子です。
経済的な苦労とは縁のなさそうな、育ちのいいお嬢様。
真剣になると少し怖いです。
ゆうくんと桃ちゃん。
二人の天才が、もがき苦しみ、なすすべを無くした姿を見てみたかったのです。
力尽きるのであれば、ああ、彼らも私と同じなのだ、と心が安まります。
乗り越えるのであれば、それはそれでやはり彼らが別格なだけだったのだ、と安心できます……いえ、どうでしょう。そのときはまた心の渇きを改めるだけかもしれませんが。
そして、二人に挟まれる私の劣等感を慰めるため、凡人の能登くんを道連れにしたのです。
能登孝治(のとこうじ)。
能登くんはあまり話したことはありませんでした。先だってのグループ学習とこのところの奴隷ごっこでようやく接点が増えました。
以前から私に好意を持ってくれているらしいことは察していました。あまり話をしないようにしていた理由のひとつでもあります。
私に対する好意が確信にいたり、今回巻き添えにするのに適切だと判断しました。
彼の命とは全く釣り合いませんが、彼の劣情を満たすことでなんらかの償いになるのであれば私を好きにしてもらって構いません。
違いますね。おそらく彼はそう提案しても辞退してくれることでしょう。それも含めて、今回の4人目は彼なのです。
卑怯ですか? その通りなので、反論する気はありません。
ただ、最終的に私のことはどう扱っても良い、というのは本心です。彼らに支払える代価はそれぐらいしかありませんし。
もうそんなの、どうだっていいのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます