7.1 順番

 勇者様の世界へお邪魔してまたしばらくたちました。


 その後この世界もいろいろありまして。奴隷館は完全に廃業、また多くの人を失した村はただひたすらに静かです。


 主のいなくなった家々をあさるようなことを日課として、それももうどうにもならなくなって。


 今はただ常温の水に葉を浸しただけのぬるいお茶を飲んでいます。他にもう口に入れるようなものはありません。


 私の幼なじみがそう呼んでいただけの「王宮」。こちらも確認してみましたが、いくつかの「金貨」がちらばっているだけでした。今となってはこんなものを持っていても交換する相手がいません。


 かつて最後の希望だった召喚の力を持った石はありませんでした。砕けた破片ぐらいはあると思っていたんですが。まあどちらでもいいことです。


 石があったらまた勇者様を召喚したでしょうか。いえ、さすがにそれは人の道にもとります。


 おそらく最初から、召喚された勇者さまはほどなく元の世界へ帰っていたのでしょう。


 迷惑はおかけしましたが、こちらで野垂れるようなことのない召喚の仕方だったのであればきっとお許し頂けることでしょう。


 そんなことを何度も繰り返し、最後、虫の息となった石がこまごまとお呼び立てしたのがゆうさん、かえでさん、桃さん、能登くんの4人だったのですね。


 今は勇者様たちの世界で楽しく暮らしていることでしょう。


 仮に完全な石があったとしても、もうこんな世界に巻き込むことはあってはなりません。


 しかし、腹が減りました……。


 本来はこんな日の高いうちから外を出歩くのは危ないのです。最低でも日中は地下室に潜んでいるべきでしょう。


 燃料もなくなった今。地下室は、文字通り地下の部屋です。

 

 狭い真っ暗な部屋で息を潜めているのと、棺桶に横たわるのとどの程度違いがあるのでしょうか。。

 

 何のためにこんなことを続けているのか、私にも分かりません。


「……あ」


 収穫はありませんでしたが、もう戻らなければ。そう思って抜けていた路地で目が合ってしまいます。


 赤い目をした野犬。


 一匹だけです。

 一匹だけなのですが。


 とても常人が相手になる強さではないのです。

 襲われればたちどころに喉笛を引きちぎられます。

 もうそんな光景を何度も見てきました。


 大型の大層な魔物なんてこの村にはきたことがありません。


 そんなものはこの村を襲うのにわざわざ必要ありません。

 そして、彼らを満足させるようなえさももうここにはありません。


 じゃり。


 野犬はすぐに距離を詰めてきます。

 私を警戒しているわけではありません。


 獲物を横取りする他の魔物がいないか。自分を襲う魔物がいないか。


 そういった彼らの生態系において競争相手になるものの情報を収集しているだけです。


 野犬の目がこちらに戻り、止まりました。


 獲物を横取りされずに確保できる。


 そんな算段がたったようです。

 

 順番はずいぶん後ろになりましたが、ついに私の番が来たようです。

 

 もう十分でしょう。


 これでやっと、楽になれます。


 それではみなさん。


 ――お元気で。

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