6.2 奴隷館の主人:道しるべ

 私学校だから、放課後戻るまで適当に出歩いてくるといいよー、とかえでさんが出て行きました。


 私も勇者様の世界は興味津々なのですぐに外を見て回ります。


「奴隷館」の仕事について理解して頂いたあと、お父様には少々お小遣いを頂きました。いい年して恥ずかしい限りですが、こちらの通貨は全く持っていないので甘えてしまいます。

 ……あちらの通貨を持っているかというとそれもかなり心細いのですけれどね。


 そしてお散歩。

 街を見ているだけで楽しい。

 

 色がとにかく多い。

 道しるべの数や種類が豊富です。きっとみな、職人が苦心して考案したものなのでしょう。

 

 あまりゆっくりしてばかりはいられません。最近の勇者様の召喚から察するに、すぐにでも元の世界に引き戻されてしまうかもしれません。手短に様々な場所へ行き、見聞をひろめましょう。


 いや、そう思っていたのですよ。ほんとに。少し早めに戻ってかえでさんたちの学校を覗いてみようとも。


 結果。


 駄菓子屋とやらで少し遊んでいただけのつもりが、あっというまに元の世界に引き戻されてしまいました。

 

 あまりにも短い。


 慎重にいくつかのお菓子を選んで、思った以上に資金に余裕があることが分かってさらに選びます。お父様は少なくてすみませんが、とおっしゃっていましたがかなりの金銭を頂いてしまっていたようです。


 その後、奥の部屋に通してもらってうどんを頂きました。


 購入したお菓子を順々に食べ、おもちゃの遊び方を教えてもらいながら店主と楽しく話をしていたのです。


 ようやく全部食べた、と店主と笑っていたらそのまま引き戻されてしまったのでした。かえでさん達にご挨拶ぐらいはしてから帰りたかった。

 

 感想は……難しいですね。もうなにからうらやましがっていいのか分かりません。


 文明やらの差はわりとどうでもいいのです。


 ただ、かつて私たちの世界にもあった日常があたりまえのように続いていることが本当にうらやましい。


 子供が連れ立って歩いている。それだけでもう涙が出そうです。


 村にいるときはよくも悪くもみな同じ環境です。励まし合ってなんとか生きていけるものです。


 ただ、それが端から見ると地獄のような世界であると客観的に知ってしまうと、際限なくみじめな気持ちになるばかりです。


 だったら少しは努力しろ、とお叱りを受けるかもしれません。正当な意見でしょう。ですが、これでもわたしどものできる範囲のことはずっとしてきたつもりだったのです。


 どうにもならなかった。今振り返っても何が駄目だったのか、どうすればよかったのか全く分かりません。


 伏してお願い致します。もし今からでも私どもの世界を立て直す方法がおわかりの方がいたらどうかご教授頂きたい。

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