終:顛末と再会
オルゴニウムの女が現れたのは地球でも、太陽系のどの惑星でもなかった。
地球と次元の異なる世界にある惑星だった。
人に近しい種族はいようと誰もがただ穴蔵に住まう生活をする。
ようやく火の起こし方と道具の作り方を覚えた未成熟な種族だった。
「進化たる姿を拒むのもまた一つの道。さて、この種族はどんな滅亡と進化をするのかしらね?」
彼女はただ進化の発端たる種を蒔き、些細な干渉と事の成り行きを見守るだけだ。
大切なのは種が如何なる道を進み化けるかどうか。
進化すれば良し。
進化を拒むのも良し。
進化に袋小路があろうと、決定された形などなかった。
「産めよ、増えよ、地に満ちよ。じゃないと滅びに喰われるわ」
この世界に与える滅亡と進化の形は――と考えた矢先、空間を越えて一機の宇宙船が突如として姿を現した。
大地を削ることで減速した宇宙船のハッチが開く。
「宇宙の魚は食い飽きたわ! 地球よ、我々は帰ってきたぞ!」
「さあ、祝い酒じゃ、焼き鳥じゃ! ピチピチギャルかも~んじゃ!」
中より出てきたのは、やけにハイテンションな草薙博士と黒部博士。
全身覆う宇宙服を着込み、腹部にはクアンタム・キューブ搭載のギアが淡く輝いている。
女は別次元に現れた相手に愕然と口を開けるしかなかった。
それは博士たちも同じだ。
「ぬぼんっ! 蛇女デター!」
「ぎゅんにゃ~ばあさんにくびり殺されるわ!」
「な、なんで、あなたたちがここにいるのよ! 世界が違うわよ!」
女の絶句した悲鳴に博士二人は顔を呆けさせては見合わせる。
「おい、黒部の。あやつ、世界が違うと言っておるぞ」
「んぬ~地球まで一瞬で帰れるワープ装置を二人で作ったつもりが、どうやら、わしら、別世界にワープする装置を作ってしまったようじゃ」
「あ、あははは……」
非常識を常識たる形にする博士ではない。
非常識で神を越え、悪魔さえ跪かせる博士だ。
女は頬を歪めて乾いた笑い声を上げるしかなかった。
「い、一応、久々の再会だけど、歳幾つよ。実年齢九〇越えているはずよ! えらいピンピンしているじゃないの!」
「ふん、超重力ケージと同じ原理よ!」
「このスーツは体内時間を止めて老化を阻止する。これで魚もギャルも釣り放題じゃ!」
女は頭を抱えるしかなかった。
地球での滅亡と進化を拒んだ技術の開発者が、またしても自分の前に現れるなど、予測できるものではない。
「さあ、ここで会ったがドドン……えっと確か、三〇年目!」
「悪ガキどもが、ボコズコの世話になったそうじゃのう!」
老体のはずだが、嵐と雷を放出させている。
その輝きと鼓動は孫たちと遜色なく、一寸も老いを感じさせない。
「ちょ、ちょっと、なんで妖精種の力なしで発動してんの!」
「ばかめ! あやつらはあくまでも起爆剤!」
「わしらの手にかかれば、あやつらなしで波動能力を開花できるんじゃよ!」
女はただ青ざめた顔で絶句するしかない。
「今度はわしらがズガガーンと相手だ!」
「今度はわしらがズドドーンと相手じゃ!」
使命を果たすには迷惑すぎる壁が別なる世界で再び立ち塞がり女は叫ぶ。
「もう勘弁して!」
「「問答無用、キエエエエエエエエイっ!」」
雷嵐のオルゴネイター こうけん @koken
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます