第4話森の魔女とお茶会

私達のお父さんは、2年前に死んでしまった

癌にかかり闘病も虚しく苦痛の内に、死んでしまった

それからというもの、家族は少しずつ変わっていった

前までは食卓は楽しいものだった、旅行に行ったりもした

お父さんが冗談を言って私達が笑って、お母さんがたしなめる

そんな流れだった

それがいつしか、お父さんはベッドから立ち上がれなくなり、私達は笑う事も無くなり、お母さんは疲れていった

とても高いお薬を飲ませ続けたけど、みんな頑張ったけど結果は変わらなかった

最後には、疲れた家族と火のついた家計が残ったのだった

それでも、幸せになる事を諦めなかったのだ

その幸せの中に「私」がいないという事が寂しくて堪らなくなる

私は母には幸せになって欲しい

あの姉たちでさえ、ついでに幸せになればいいじゃないって風には思ってる


だから、一度は夢と諦めたけど

過度な幸せに怯えてしまったけど

だけど、どうしてもこんなふうに思ってしまう

(私が王子様と一緒になれば、お母さんは幸せになれるかな…私を見てくれるかな…おめでとうっていって…くれるかな)と


シンデレラは、よし!と一声立ち上がり

後片付けを手早く済ませ自室へと戻り外出の支度をした

今宵とある人に会いに行く約束だったのだ


満月の夜、街外れの森の中に小屋が一つだけ建っている

街の人は魔女の家と呼び、怖れ近寄らない場所だ

確かにここにはおばあさんが一人住んでいる。それに人からしたら怪しい魔法の研究をしている

しかし、それで誰かに迷惑を掛けたりましてや傷つけたりした事は一度としてなかった。むしろ、医者でも治せなかった病を治したり腰痛に効く薬を調合したり、一部の人からは感謝されていた。

それでも、大半の人からは不気味に映り、避けられていた。

そんな具合なので滅多に来客の無い魔女の家に訪問者が現れたことは、家主を少なからず喜ばせた。

「お入りや、開いてるから」

「ごめんくださいおばあさん!」

訪問者は、早く言いたくてしょうがない子供のように、騒がし気な様子で入り込んで来た。

おばあさんは、微笑みながら予め用意していた紅茶を二人分淹れて最近出来た友人であるシンデレラを迎えた。


「昨日は本当にありがとう。とても素敵な夜だったわ。人生で一番幸せだったわ」

「そうかい。それはよかったよ」

「魔法というのは凄いのね、舞踏会へ走ってくれたかぼちゃの馬車も、素晴らしい生地のドレスも本当に0時を超えたら無くなっちゃって。ガラスの靴が無かったら本当に夢かと思いましたよ」

「ふっふっふ、それが魔法の良いところでもあり悪いところさ」

おばあさんは、紅茶を何とも上品に一口頂いた。その様子はどんな貴族でも真似できない優雅なものだった。

もしかしたら、昔はどこかのお嬢様だったりしてと、シンデレラの頭をよぎった。


「でも、何で私なんかにこんな良くしてくれるの?私なんかじゃ、何もお返しできないわ。せめて、今日はお菓子を焼いてくる事しか」

シンデレラが、おずおずと小ぶりのバスケットからクッキーを見せると、おばあさんは目を輝かせて柔らかく喜んだ。

「充分だよ。素敵なお土産もくれたし、友達になってくれたじゃないの。私は心の綺麗な話し相手がずっと欲しかったのさ。だけど、これからもっと幸せになっちまう娘っ子はこんな老いぼれをかまってくれないかな?」

と、愚痴をこぼすようにおばあさんが、にまにまと問うと

シンデレラは茹でだこのように赤面し、恨めしげにおばあさんを見やった。

「そんなことありません。王子様もガラスの靴を返しに来るだけですよきっと!それに、ここにはまた来ます。来ないでくれと言われても来ますから!覚悟してください」

「ふっふっふ。そうかいそうかいw」

王子がそんな暇なことするわけあるかいと、思いながらも口にはせずクッキーを噛りご満悦なおばあさん

すると、シンデレラは声のトーンを一段下げ告白した。


「それに、私は心が綺麗なんかじゃないです…本当は一日だけで良かった。一回だけで良かったんです。毎日家事だけを繰り返していた人生に、一瞬だけあんな幸せがあってもばちはあたらないって」

「うむ」

「…でも、私は悪い子です。王子様の顔を思い出すたびにもう一度、私を呼ぶ声を思い出すたびにもう一度お会いしたいって。あの手に触れたいって思ってしまうんです」

「うむ」

「それに、お母さんも…楽させてあげれるかなって。私が王子様とその、けっ、結婚す、することにな、なったら」

壊れたおもちゃのように急にかくついたシンデレラをあざと可愛いなと吃驚したおばあさんは、あまりの甘ったるさにノンシュガーで紅茶をあおった。

「そ、それでおばあさんに最後のお願いがあるんです!」

「魔女に最後のお願いなんてして良いのかい」

「大丈夫です。どうなろうとも、魔法に頼るのはこの一度だけです」

「分かったよ、魔女として約束は絶対だ。その願いは叶えてやろう。さぁ言ってみな」

シンデレラは最後の願いをおばあさんにに託し、明日の朝にまたこの場所で落ち合うことを約束した。

「それじゃあ、おばあさん今日はありがとう。また明日ね」

「ああ、気を付けて帰るんだよ」

シンデレラは、年の離れた友人に紅茶のお礼を言うと、自宅へと急いだ。


「子供ってのは難儀で、健気なもんだね。いい娘を持ったじゃないのさ。あの子も、そろそろ素直にならなきゃね」

おばあさんは、シンデレラを見送ると一人窓から見える月に向かってひとりごちた。

そして、とある町娘の家でも一人の母親が窓の外を厳しい瞳で見つめていた。

その先はちょうど魔女の家がある方角だった。

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