第3話食卓

夕刻、かしましく何事かを話し合いながら姉と母が帰宅してきた

シンデレラは晩ご飯のお皿を並べて料理を器に乗せていた

料理の準備が終わる頃には、家族全員が食卓を囲んでいた

いつもなら、外されるシンデレラを同席させているのが不思議だったがとても久しぶりに家族揃ってご飯を食べられることをシンデレラはとっても喜んだ

神様に感謝したあと直ぐに姉達は話しだした

「でも、例の子も馬鹿よね」

「そうそう、なんて勿体ないことしたのかしら」

母はそれを聞くと不機嫌に件の娘を、嘲笑うように詰った

「所詮はネズミのように紛れ込んだ田舎娘だったのですよ。どうせ、悪知恵を働かせて王子を騙しているに違いありません。なんて下品なことでしょう。王子が余りにも可愛そうです」

王子という単語に、シンデレラは、はっと息を呑んだように固まってしまった

それを目ざとく姉達は見つけシンデレラに笑いながら言葉を投げかけた

「あら、世間知らずの貴方でもやっぱり王子様の事は気になるのかしら」

「生意気ね。身の程を知りなさいよまぁ夢を見るのは自由だけど」

姉達の言葉は、シンデレラにはよく分からなかった

(この人達は自分らにしか分からないことを、嫌らしげに相手にひた隠しながらそれをネタに攻撃することを得意とする陰険シスターズです。そんな邪悪姉の意地悪に耐える私は健気可愛いシンデレラ、神様良きに計らって下さいませ)

と、シンデレラは心の中で唱えた

図太くなければ、いつの時代も生き残れないのだ

しかし、母親の言葉だけは彼女の心をいつも薄暗く、凍えるような心地にさせる

「貴方はいいわよね、気楽で、呑気で…あの逃げた娘と同じに不愉快だわ」

諦めたように、他人のようにこちらを見もせずに吐く母の言葉はまるで冷気でも帯びているようにシンデレラの心と顔を氷つかせた

「…ど、どういうことでしょう、何か王子様の身にあったのですか」

ようやく、絞り出すように質問すると

「昼頃に国から張り紙が出されたのよ、中央の広場にね」

「街中に配られてるみたい。王子様自らお探しになられるのよ。また、お会いできるのね」

要領を得ない姉達と違い母は端的に言い放つ

「昨日の舞踏会の途中、王子は何者かと一緒に抜け出しその者に心を奪われた。

王子はその者が落としたガラスの靴にピッタリと合う金髪の娘を探してます」

ゔっ、…私やそれ。

「明日の昼頃には、この辺りにも王子が来ます。ですから、あなた達決して粗相の無いようにしなさい」

「はーい!大丈夫だよ、お母さん」

「そうそう、それにもしかしたら私金髪だし靴入っちゃうかもしれないわよ。そしたら、王子様のお嫁さんになれるってことよね」

幸せそうに、話し合う姉達を尻目にシンデレラは少し嬉しかった。

自分を覚えてくれていたこと

諦めてしまった私を探してくれること

タンスの引出しの奥に隠したもう一つのガラスの靴を思い出して、シンデレラの心を暖かくさせる。

「いいなあ、お姉ちゃんは金髪で。私は赤髪だから選考外だ」

ふてくされている、二番目の姉の言葉に母は当たり前のように言い放った

「何を言っているの?今晩中に貴方は髪を染めなさい」

「え?」

「え!」

「え?」

三人の娘は初めてと言っていいほどに、完璧に息を揃えて驚愕した

「当たり前です。王子と婚姻出来たなら、夢のような豪華な暮らしが出来るのですよ。幸せになれるのですよ。昨夜の舞踏会へ貴方達を参加させるためにどれだけ苦労したと思っているの」

母は少し疲れたような面持ちで話した

「もうあの人はいないのですから…それでも私達は幸せにならなければならないのです」

そういうと、母は立ち上がり自室に入っていった

姉たちも母が本気であると知り、明日の準備の為自室へと引き上げた

残るは、食器と量からしたら僅かばかり減った料理、そしてシンデレラだった

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