第8話 新しい旅立ち

「貴女が二度目の召喚をされて、ここに再び現れた事は、アスランテにはご褒美だったと思います。彼は貴女を元の世界に送り返したあとは、何をするでもなく死んだように生きていましたが、貴女が戻った気配を知ると突然生き帰った様に元気になり、直ぐに探しに行きました。だから、彼にとっては本望だったと思います」


 今、ムーランの屋敷で私は居候中だった。


 ベッドの上でゴロゴロしながら泣きじゃくっていた私はむくっと起き上がり、ムーランに言った。


「私は?――――この世界に、私が召喚されて、ちゃんと悪い奴を倒したのに――――どうして神様は私にご褒美をくれないの!そんな事ありえない。神様が悪い」


 もう泣き過ぎて頭がガンガンする。


「ええっ、そう私に言われても・・・」


 確かにムーランに言ってもしょうがない。


 裸足でベッドから飛び出し、雨の降る庭に出ると、仁王立ちで天に叫んだ。


「かえせ、こんちくしょ――――――――!ゆるさ――――ん!」


 子供の様に地団駄を踏んで私は怒りまくった。



 すると、雨と一緒に、突然天から白いものが落ちて来た。


 ポテッ・・・


 私の頭に当たって下に落ちた。


「あ・・・」


 白い小さいモフモフだった。


 それは『白い精霊さん』だったのだ。


「キューっ。イタカッタ?ダイジョウブ?」


 私はそれを掴んで頬ずりした。


「せ、精霊さん?」


「ココ、ナカナイデ、ダイジョウブ?」


「わーん、精霊さん」


 すると、天から声が響いた。



 


 ―――――――― 私はこの世界を司る者。


 そなたには、邪神を倒してもらい、礼をいう。


 望みを叶えてやりたくとも、アスランテはすでに新しい輪廻に組み込まれている。


 だが、どうしても探すというのなら、そなたにはアスランテの魂の欠片を渡そう。


 どうしても、もう一度逢いたいのなら、その欠片をたよりに探すのだ。


 それが、道しるべとなる。


 この世界の何処かに、アスランテの魂を持つ者がいよう。


 新しい世界を求めて旅に出ると良い。


 だが、外の世界にも邪神の手先はいるのだ。そなたの聖なる力が身を守るだろう。


 健闘を祈る。




「――――神託がおりましたね・・・」


 いつの間にか雨に濡れるのにも構わずに私の隣に立っていたムーランが、ほっとした様に言った。



 私は、白い精霊さんが戻って来たことに狂喜乱舞した。


 そして、4日分泣いたエネルギー分、取り戻すように爆睡した。



 目が覚めて、ふと思った・・・。


 フスフスと白い精霊さんに頬ずりして考える。


 なんか、褒美だといいつつ、あたし、いいように使われてない?


 鼻先に人参ぶら下げられてる馬みたいに・・・。


 眉間にシワが寄った。なんか腹が立つ。



 でも、結界が無くなり、外の世界に出られるようになった。


 外の国からもベリン国に入ってくる者もいるだろう。


 ベリン国だけの地図ではなく、新しい地図が必要になる。


「ねえ、ムーラン。私、アスランテを探しに行くよ。外の世界に探しに行く」


「では、私もお供いたしましょう」


「ベリン国の事はいいの?」


「ええ。他にも有能な一族の者が大勢いますから大丈夫です。貴女は少しばかり注意力が足らないので心配ですし、私も知らない世界というものに興味がありますので。参加します」


 モノクルをキュッとおさえてムーランがそう言った。


「参加しますって・・・」


「世界は広い。新しい世界を見る事ができるのも貴女様のおかげです。楽しみではないですか」


「――――そうだね、今度は私がアスランテを探しにいくよ」


 いつの間にか雨はすっかり止んで、明るい太陽が輝いていた。



 


    ※      ※      ※




 ベリン国の王が斃されてから、半年経った。


 新しい国の仕組みは少しずつ考えられているようだけど、今からだよね。


 そっちの方は私には関係ない。



 それよりも、ムーランがベリン国から、別の大陸に渡る下調べをしてくれていた。


 国の結界が無くなり、地続きで他の国に入るルートがある事が分かったのだ。


 結界障壁につつまれたベリン国は、鎖国していた日本みたいな状態だけど、実際には大陸は広く、島国だったわけではなかったのだ。


 魔鳥を飛ばしてルートを考え、直ぐ近くの国の状態も調べている。


 ムーランの眼は魔鳥を通して国の状態を見る事が出来るのだ。


 半年かけて詳しくしらべ、それからの出発になった。


 言葉や習慣が違う、魔法を使わない国の様だ。どうやら『魔力』を使う概念を持たない。


 でも、魔力を持つベリン国の人間は、それを使って言語を訳したり出来ると分かった。


 服装や習慣を調べて、まずは隣の国に溶け込めるように用意した。


 でも、私が着ていた物はそんなに違和感のない物だったので別に大した変化もない。


「うっわー、なんかムーランが違う姿になると、不思議」


「貴女は何を着てもあまり変わり映えしませんね」


「おおきなお世話」


 今の私の姿は、黒目、黒髪の元の姿に戻っている。


 取り敢えず、隣の国はいろんな人達が混ざった国の様だ。人種もミックスで髪色や姿も色々らしい。


 ローブやリュックはいつもの奴だし、日差しが強いのでターバンみたいなのを巻いてる位だろうか。


 ムーランは軽装になり、冒険者スタイルになった感じだ。


 何か、男装の麗人っぽい。髪は後ろで一つに括ってある。


 旅立つ前に、ハンターとヤトとシオウとは涙の別れをした。


 今からは、異種族も分け隔てなく暮らせる国を造っていくのだから、やらなければならない事は多い。


 私からの連絡は魔鳥を使ってやりとりする約束をして別れた。


 まあ、出発までに半年もあったのでその間もいろんな出来事があった。


 全部素敵な想い出だ。






「さあ、出発しましょうか」 


 見送りはいらないからと言ってある。


 ひっそり出発というのも淋しい気もするけど、見送られるのも淋しいのだ。


「うん、行こうか、アス」


「キュピィ~イコウ」


 私の肩に乗っているのは『白い妖精さん』のアスだ。


 アスランテからとった名前。


 最初はたった一人での旅だったけど、今はムーランも、アスもいてくれる。


 赤毛のあの人も、今は新しい輪廻の輪の中にいるのだろう。


 いつか会う事があるだろうか・・・?


 



 


 「第一部 ベリン国編 終了」

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体質系?異世界召喚者、また召喚され、怒る 吉野屋桜子 @yoshinoya2019

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