第9話 おとり
「それで、俺は何をすればいい」
「
「…………何年分?」
「遡れるだけ」
「わかった」
斐陀野は了承して探偵事務所を出て行く。
それを見送ることもせず
これで狙い通りの情報が手に入ったとして、一歩詰め寄るだけ、追い詰めることは出来ない。
追い詰めるにはもっと致命的な証拠がいる。
伝承や噂という不確かなものではなく、確定している情報。
「何をしようとしているんですか?」
「犯人を捕まえようと…………いや、その必要はない、のか?」
依頼内容は事件の解決ではなくクロを引き渡すこと、決めつけが過ぎる依頼人に対して、クロが犯人でないことの証明をすることで依頼は達成の必要がなくなる。
ならば犯人は誰であるかと詰められても、それはもう探偵が探す必要はない。
警察に通報して終わり。
曖昧で不確かで不可思議なものを証明する必要がないのなら、ただ無実であることを証明するだけならずっと楽だ。
「情報を集めているんです。どう問い詰められても、クロが無実であることを証明できるように」
時津は事務所のソファーに腰掛けると背もたれに背中を預けて顔を上に向けて目を瞑る。
「あの、なにしてるんですか?」
「んー、こうしてると、首のあたりが気持ちいいんです。やってみます?」
杏は時津の隣に座って同じように上を向く。
「ほんとだ。たしかに」
「なるほど」
リラックスし始めた杏の隣で時津は勢いよく立ち上がった。
「クロ、君は知っていたんだな。確かに、これなら俺は死なないな」
何か思いついたという風な時津、ちょうどそこに斐陀野が戻ってきた。
「とてつもなく速いな。斐陀野さん、あなたは素晴らしく優秀な人材か、事件の犯人ですよ」
なんて簡単なことだったんだと、少しノリノリな様子で時津は斐陀野から資料を受け取る。
「やっぱり、行方不明者は女性だけか」
「やっぱりというのは?」
「いや、こっちの話」
クロは未来視によって今回の件で時津は死なないと口にした。
それは時津が犯人を捕まえるために自身をおとりにして襲わせ現行犯で逮捕するという一番最初に考え付いた方法において、骨まで喰らう妖相手では多少の護身術ではどうにもならないだろうという考えからの問いかけへの答えであった。
しかしクロは決してその作戦によって時津が死ぬかどうかは口にしていない。
あくまで今回の依頼の中で時津は死なないと口にしただけ。
未来の時津は取らなかったのだ、自身をおとりにするという方法を。
捕まえずとも問題はないかもしれないと考えていた時にふと思った。
現行犯逮捕は不可能だったのではと。
自身をおとりにした作戦は失敗に終わった。
なぜなら、おとりに食いつかなかったから。
死なないうえで失敗するのならそれしかない。
「捕まえるのはむりだったか」
失敗ではない。
この書類を見ればすぐにおとりに意味がないことはわかる。
自身ならまだしも他人をおとりに使うわけにはいかない。
当然捕まえることは出来ないが、そもそも依頼を完遂するために必要なのは真犯人を見つけることではなく、クロの無罪証明のみ。
「それじゃあ、楽な道に進もうか」
猫と探偵 赤柴 一 @sibamon
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