感謝

平 一

感謝

https://kakuyomu.jp/my/news/16817330660963248469


今年もまた、異星種族から人類に向けて、

挨拶あいさつの動画が公開された。

少女と黒猫が混ざったような生き物が、

感謝を示す赤いバラの花束を手に、

愛らしく微笑みながらたたずんでいる。


彼女達は量子頭脳への人格転移マインドアップロードを達成し、

高度演算能力や共有人格形成能力を得た、

銀河帝国の最先進種族のひとつだ。

そんな種族がよくするように、彼女達もまた、

ネコとコウモリの混血みたいな基本個体の

面影おもかげを残す、人間型の分離個体ヒューマノイド・アバターを使っていた。


通常、分離個体アバターは威圧的な印象を防ぎ、

好感度を高められるよう設計される。

具体的には自種族の特徴を備えつつ、

相手種族の基本的な遺伝子型を持った、

魅力的な若年個体の姿を取ることが多い。

そこで……可愛い猫耳少女というわけだ(笑)。


とはいえ個体の寿命も克服し、

経験や認識を共有できる各種の量子頭脳や

多様な生物・機械的身体を乗り換えながら、

悠久ゆうきゅうの時を生きる種族のことだ。

彼女達自身にとっては年齢や性別の違いなど、

あまり意味を持たないのかもしれないが……。


彼女は語り始めた。

『人類の皆様。 

かつて私達は〝先帝〟種族の命により、

皆様の祖先を含む様々な発展途上種族の

文明発達を、かげながら支援しました』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660963865493


公式声明ではあるが、親書に近いものなので、

言葉もやさしく、分かりやすい。


『しかし、その後帝国では、

〝中枢種族〟と呼ばれる皇帝側近種族を初め、

帝国建設に功労のあった軍事種族の多くが、

腐敗と抗争に陥ってしまいました』


『彼女達は〝先帝〟種族をも傀儡かいらい化したうえで、

新興の技術・産業種族を抑圧し、

構成元素の異なる銀河系外周種族からも

収奪を行ったのです』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660964834824


いつの時代も、どこの国でも、

技術革新や歳月の経過で経済・社会は変わる。

それに応じて適切な政策をとり、

健全に発展し続けるのは大変なようだ。


『彼女達はまた、途上種族を配下にするため、

私達の文明支援計画に対しても、

組織への浸透しんとうや職員への買収、脅迫により、

非人道的な干渉を加えるようになりました』


当時の私達には知るよしもなかったが、

危険な軍事技術の供与から紛争の扇動、要人の暗殺、

遺伝形質の狂暴化まで、相手種族の存亡もかえりみず、

かなりえげつない手段を使っていたらしい。


『そのため、帝国の健全な繁栄を願う私達は、

厳しい制裁も覚悟のうえで改善の請願を行いました。

しかし、すでにながらく抗争状態にあった

軍事種族間では、責任の所在を巡って内戦が勃発し、

それに巻き込まれた〝先帝〟種族も滅亡して、

帝国は崩壊の危機に直面してしまったのです』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660965139273


『この事態を受けた私達は、

友好種族と共に帝国を救うため、

〝先帝〟からの亡命者達に指導をあおぎつつ、

人類を含む様々な種族に助けを求めました』


実を言うとそのあたりの経緯いきさつについては、

色々なうわさが流れている。

そもそも戦前からの〝先帝〟亡命者達が衝突を誘発し、

腐敗種族の共倒れを図ったなどという説も聞く。


だがその内戦では〝先帝〟種族自身も滅亡し、

一時は帝国の存続さえ危うい状況になっている。

何より腐敗種族の自業自得じごうじとくという面が大きく、

真偽のほどは定かでない。


『ただ私達は、文明発展を助けるための

神話において悪役を演じたこともあったので、

皆様は突然現れ、伝説の悪魔にも似た

異星生物である私達を恐れました』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660965752254


それに加えて旧帝国派種族のテロなどもあり、

確かに当時の世界は大混乱となった。

もっとも私のようなSF愛好家ファンから見れば、

とても可愛い部類の異星人エイリアンだったのだが……(笑)。


『しかし、そんな私達の依頼に対し、

証拠に基づき真実を確かめた皆様は、

過去からの偏見にとらわれず、

誠意をもって私達に協力してくださいました』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660966001556


『最も成功した若き種族の信頼を得た私達は、

さらに多くの種族から支持を受け、

平和回復と国家復興を果たすことができたのです。

また、皆様の惑星政府が模範となって、

多くの種族に民主政体が広まり、帝国自体もまた、

帝政から民主制への移行を決定できました』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660965547419


まあ民主化について言えば、技術が進むと社会活動は

豊かになり、省力化すると共に、複雑・加速化する。

そうなると政策も変わらざるを得ず、

必要とあれば大勢が動くが、衆知も活かせるよう、

国際化など広域化する一方で、民主化・自由化、

地方自治、官民協働、市民参画など分権化する。

皆でどんな社会を作るかを考えるのが仕事になる時代に、

奴隷や遊民ばかり増やしても国家的自滅行為だろう。


広大な星間帝国ではそれが一時的に退行しただけで、

実は彼女達も、それを知っていたのではないだろうか。

統一国家を確立できたら分権化も再開するため、

人類を〝お手本〟に見立てたのかもしれない。


『さらに、人類が政策的にAIを活用して

自然物と人工物の間の障壁を取り除き、

双方の長所を共有させて、惑星上における

持続的発展を達成したのも、偉大な功績です。

このことは帝国においても、場合によっては

さらに大きな種族間の障壁を取り除き、

星間文明の持続的発展を実現する、

種族間親和技術の開発につながったのです』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660968227892


AIの導入も、文明発展の歴史からは当然といえる。

惑星資源・環境の限界、経済・社会の複雑高度化、

健康低下と教育の困難化、制度変更の加速化……。

ある技術段階で利害調整政策を極めたら、

その限界を越える新技術導入政策が必須となる。

彼女達はそのことも、分かっていたはずだ。


なにしろ後に、惑星文明における農耕、動力、電算、

そしてAIといった画期的技術が、

星間文明での惑星適応、高次元動力、人格量子化や

種族間融和にあたると聞いた時は、私達人類も驚いた。


言われてみれば、それらの技術は実際、

物質利用による惑星・星間文明の成立、

エネルギー利用によるその拡大、

情報利用によるその効率化、

技術と自然・社会環境の親和化による持続的発展と、

ちょうど平行的パラレルに進歩している。


技術開発の必要性や可能性の予測は難しい。

しかし開発の難易度や、社会変化・需要の動向、

惑星・銀河など環境限界との関係から予測して、

備えておけば役に立つことが分かった。


『皆様の素晴らしい貢献もあって、今や帝国は、

アンドロメダ銀河をも含む銀河間国家に発展し、

知性がもたらす文明の光があまねく行き渡る、

輝かしい繁栄を謳歌おうかするに至っています』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660968592707


『以上から、ここに私達新皇帝種族サタンは、

理事種族アスモデウス、アスタロト、ベール、

バールゼブル及びアモンの賛同を得て、

このたび量子頭脳への人格転移マインドアップロードを達成した

人類の最先進種族認定を裁可し、

大いなる感謝と共に、祝福いたします』


やれやれ、とうとう私達も悪魔の仲間入りか。

とはいえ人類の方でも大喜びのお祭り騒ぎで、

むしろ彼女達を新たな大天使に叙任じょにんしよう、

という動きまであるという(笑)。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660968966811


まあ考えてみれば彼女達は、皇帝種族を神様に

見立てた神話の中で悪役を演じるなどして、

当時の人類など多くの種族の文明化を助けた、

いわば功労者といえる。


実際には〝神〟の最も忠実な臣下だったわけだし、

善悪二元論の神話が採用される以前には、

世界各地、あるいは途上星域各地の多神教神話で、

古い神々を演じていた連中も多い。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660968746903


そもそも、こうした多種族共生の流れは、

まだまだ〝新参者しんざんもの〟の人類には有難い話だ。

それに、ある意味では必然ともいえる

成行なりゆきだったのかもしれない。


なぜなら昔、Y.N.ハラリという歴史学者が

次のように語っていたそうだ。

『人類は高い技術を得れば、神や悪魔に近づく。

どうせなるなら〝責任のある神〟になれ』と。


そして今こそ、神や悪魔や人間、

あるいは異星種族間の区別がなくなって、

互いのために全てを活かすべき時が来た、

といえるだろう。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660967598829


高度な技術と政策のおかげで、

違う誰かを悪者にして叩いたり、

不運な誰かの犠牲をしのんだり

しなくてすむ時代が、やっと来た。


人道的手段で自分達自身を高めることにより、

なんじの敵をも愛』し、

『誰一人取り残さない』ことが、

宇宙規模で可能になったというわけだ。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660970831842


もしもいるなら本当の神様だって、

きっと喜んでいるに違いない。


今日は、地球暦の12月25日。

彼女達が人類にもたらした

最も有名な神話のひとつで、

救い主の誕生を祝う祝祭日しゅくさいじつである。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660971177693

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