最終話 碧色の翼
=これまでの経過=
記憶を無くした主人公のウモユカクが唯一残された記憶、それは「碧色の翼へ辿り着かなければならない」ということ。
イメージしたことを具現化できるという特殊能力を持つことに気づいたウモユカクは、その強大な力を狙う数々の思惑に翻弄される。
そんな中、ウモユカクの正体と「碧色の翼」の意味に気づいたゾルググ兵隊長は、それを伝える前にスパイである人狼メラルゴの陰謀に巻き込まれ、処刑されてしまった。
そしてその魔の手はウモユカクにも伸びていた。惑星ウローナで保護されるはずだったウモユカクは、策に嵌りメラルゴに殺害されてしまったのだった。
*
そこはひっそりとしていた。
宇宙の片隅で、まるで時が止まったかのようにその空間はそこにあった。世界が始まる遥か昔のことなのか、それとも全て終わった後なのか。それすらも計り知ることのできない印象がその空間を満たしていた。
どこと繋がっているのか分からない延々と続く浜辺。打ち寄せるのは静かに瞬く星たちと、無の空間。ここに敢えて名前をつけるならばこう呼ばれるだろう。
最果ての岬。
存在しうる全て場所から一番離れた場所に位置するその岬、その先に一つの塔が立っていた。外壁は鈍い灰色を反射し、黒く変色している。レンガ作りにも見える外壁は所々にひびが入っている。少し傾き始めているその塔は、中で住むには幾分心もとない不安定さを持ち合わせていた。
その塔の最上階、何者かが階段を上がる音が響いた。
シャッシャッ、という一歩ずつ砂を踏みにじるようなその音は確実に最上階の部屋へと近づいていった。
シャッ、シャッ、シャッ——。音が止んでから数秒して、ギィィという錆びついた音が響く。そのまま重い扉がゆっくりと開いた。
扉を開けたのは腰の曲がった老人だった。杖をつき、白いあごひげを生やしたその老人は、常に目線を少し下に向けていた。
そのままゆっくりと、部屋の中央まで足を進めると、目の前の画面を見つめた。
「………………」
その画面を、ぴくりとも動かさずに睨みつけていた。それから一つため息をつく。
「銀河位126:03:-26。ダガンブルグの
老人はゆっくりと部屋の中を移動すると、近くにあった椅子に腰掛けた。体重をかけた瞬間、その椅子はぎい、と鳴いた。
「全て……予定通り。筋書き通り、という訳じゃな」
誰に話しかけるでもなく、その独り言はぽつりと壁に当たって反射した。窓の外には動くことを忘れた宇宙空間がまるで静止画像のように貼り付いている。
ふわぁ、と一つあくびをしてから老人はきっ、と顔をあげた。
「であるならば、もうすぐここに……」
トントン。幾分元気のいい甲高い音が扉から聞こえた。
老人がその音の方をじっと見つめる。
しばしの静寂の後、扉がギィという音とともにゆっくり開いた。そしてそこには一人の女性が立っていた。その姿を見て、老人はにっこりと微笑んだ。
「ようこそいらっしゃいました、ウモユカク様」
ウモユカクはただ呆然と立ち尽くしていた。息を少し荒くして、ゆっくりと一歩ずつ部屋の中に足を進めていった。
「あの……ここは?」
「慌てることはございません。今に全て明らかになります」
ウモユカクは部屋を見渡した。塔の最上階のその部屋は、丸い空間で、ところどころにある窓から外の宇宙空間が見えた。それから自分の手のひらを確認してみた。少し傷はあるが、ほとんど痛みはない、刺されたはずの胸を触ってみるがそこにも傷一つない。あの時と全く一緒だ。どこかの星で拘束され、おそらくとどめを刺された時になんらかの爆発と、空間移動が生じ、その後まるで何もなかったかのように傷が回復していたあの時と。今回もあのメラルゴに胸を突かれた後、気づけばこの塔の前に倒れていたのだ。
「ウモユカク様、ご安心ください。お探しのもの『碧色の翼』はあちらにあります。さあ前にお立ちください」
そういって老人は大きな鏡を指差した。
その鏡は人一人を写せるばかりではなく、部屋全体を写せるほど大きかった。そして緑の縁取りのところどころに翼の彫刻が施されていた。
「この鏡は?」
「これはただの鏡です。何も魔法はかかっておりません、ですがこれこそが『碧色の翼』です、その意味はもうじきわかります」
これが……碧色の翼? 多くの権力者が血眼になって探しているという偉大なる力?
ウモユカクは疑問を抱えながらもその鏡の前に向かって行った。そしてちょうど自分の姿が全部映る場所へ立つと、その映し出される姿を見つめた。
「これは……どういうこと? これが——私?」
老人は微笑みを崩さぬまま、ゆっくりと頷いた。
「そうです、これこそがあなたの姿です」
ウモユカクはその鏡に映った姿をじっと見つめた。その姿は見覚えのあるものだった。
くすみ一つない白い肌に高く整えられた鼻筋。ふわりと揺れるブロンズの髪が肩までかかり、黒く光る瞳はとても大きく、見る者全てを癒すだろう。
「この姿は確か……ロレアナ姫?」
「思い出されましたか、あなたこそがロレアナ姫です」
あっ、と声が漏れた。
その瞬間、まるで堰き止められていた記憶たちがなだれ込むように脳裏に飛び込んで来た。
「あぁ……そう、そうだった。私は……」
涙が、はらりと頬を伝ってこぼれ落ちた。やっとだ、やっとここまで来た、長い道のりだった。
ロレアナ姫には強大な力が宿っていた。だからこそその力を悪用されないよう、守る必要があった。その方法がこれだった。
もし誰かに捕らえられ、その力の秘密が暴かれそうになった時、とあるプログラムが発動する。それはまず、自分の記憶を全て消去する、「碧色の翼」という言葉だけを残して。それともう一つ、自分に致命的なダメージを受けるたびに、空間移動をするようにし、それが二回発生すると、この塔へ来るようにプログラムした。空間移動が二回起こる頃にはある程度自分のすべきこともわかって来ているだろうと信じて。そして自分の姿を認識したとき、消されていた記憶が戻るように仕向けたのだ。
こうすれば記憶を探られることなく、いつかきっとここにたどり着ける、そう信じてあの時の自分は自分の記憶を消した。
そこまでして守りたかったその強大な力とは何か。
ウモユカクは大鏡の前に置いてある、四角い銀の塊を見た。そしてそれを開く。するとまばゆく光るディスプレイが現れた。そしてそこに表示されていた文字、それは。
——書ける、読める、伝えられる—— kakuyomu
これさえあれば、どんなストーリーだって作れる、書き換えられる。
さあ、どんな物語を作ろうか。
(了)
==編集後記・ぼやき==
無謀な計画にもかかわらず、最後までお付き合いいただきありがとうございました! 次回チャレンジする際に試みたいのは、「もう少しテーマを絞る」「内容は2000〜4000字くらいまで」「数日以内に更新する」などでしょうか。
もし次もありましたら、ぜひご参加をお願いします!
ではまたお会いする日まで!
Special Thanks
電咲響子様、あいる様、朔 ついたち様、須藤二村様、坂井令和(れいな)様、いとうみこと様、牧野 麻也様、三木 満智子様、愛宕平九郎様、ドゥギー様
本当にありがとうございました!
【peer小説:β版】なんでこうなった? 木沢 真流 @k1sh
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます