最終章

彼女の葬儀にはクラス全員が参列した。皆、彼女の死を知らされた日から、抜け殻のようだった。彼女がいかに愛されていたかが、こんな形で知るなんて誰も思わなかっただろう。ただやるせなさがだけが心を埋め尽くす。

 なんだよ、本当に勝手な奴…

急に僕の目の前に現れては勝手に楽しそうに話し、ズカズカと人の心に入って来るし、僕はいつだってそんな彼女に苛立っていたのに。それなのに、あの放課後だけは、あの瞬間だけは、彼女に少しだって苛立たなかったのに。

 僕は、葬儀が終わった後、彼女の母親を探した。見つけて声をかける。

「あの…この度はお悔やみ申し上げます。同じクラスの笠原湊です」

「あ、あなたが笠原くん…あんな手紙もらって困ったでしょ?ごめんなさいね」

「あ、いえ。そんなことは…でもなんで僕なのかなとは…思いましたけど…」

僕は彼女の真実を知った時から疑問に思っていた。なぜ僕だけに真実が告げられたのか、まったく身に覚えがないのだ。

「向日葵の日記に、あなたの名前がたくさん書いてあったわ。これは、あなたに持っていてほしいと思ったのだけど、受け取ってくれるかしら?」

彼女の母親は、日記帳を僕に渡した。その場で数ページ読む。僕は膝からくじれ落ちた。

「始業式、今日は同じクラスの笠原くんが気になった日」「今日は笠原くんに話しかけられた!」「イソップ寓話、調べてみようかな」「笠原くん、体調大丈夫かな?」「二人で保健室にいた時は幸せだった」「笠原くんに会えたのは嬉しかったけど、泣いてた」「放課後、笠原くんに弱み見せちゃったな」「笠原くん…私、汚れちゃったよ」「太陽になれなかったよ」

僕は大声を出して泣いた。人の目もはばからず、ただ声を上げて。この涙が枯れるくらいに、大粒の涙を流しながら。

「あの子は、辛いことがあっても、あなたの存在に救われていたみたい。ありがとうね。太陽になる前にあの子は…」

そう話す彼女の母親の言葉を遮り、僕は叫ぶ。

「太陽でした!僕の太陽でした!みんなの太陽でした!彼女は間違いなく…太陽でした」

彼女の母親は、ありがとう、と言ってほほ笑む。それでも僕は泣き続けた。いつしか雨は上がり、灰色の雲の隙間から少しだけ太陽が顔を出していた。

              ~END~

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太陽と呼ばれた娘(こ) @aoi_03_

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