第7章

夏の暑さを忘れてしまいそうなくらいの大雨が降る日。僕はいつもは適当に着ている制服を、今日はしっかり着て、同級生と一緒になって列に並ぶ。地面を強く叩きつける雨音。堪えながらも漏れる誰かのすすり泣きする音。静かなこの瞬間(とき)に規則正しく鳴り響くお鈴の音。僕の姿は、久坂向日葵の葬儀の列にあった。

 オレンジ色の教室で「太陽になりたい」と言ったその日の夜、彼女は死んだ。歩道橋から飛び降りたらしい。即死だったという。次の日には、担任の教師からクラス全員にそう告げられた。一瞬、時が止まったように音が消える教室。次の瞬間には、女子生徒のほとんどが一気に泣き始めた。けれど僕の時は止まったままだった。

 意味がわからない。あの教師は何の話をしているんだ。

僕の頭の中には「意味不明」の四文字だけがある。理解できない、いや、きっとこれは理解しないという言葉が正しいのだろう。僕はその事実を簡単に飲み込めるほど、都合のいい頭ではなかった。

 彼女は家で、実の父親に数年に渡って暴力を受けていたのだという。そしてあの日の夜、初めて父親に襲われた。自分の体が汚れてしまったことに耐えられなくなった彼女は、命を絶つ道に進んでしまったという話らしい。これは彼女が亡くなる直前に書かれた、涙の滲んだ日記によって明らかにされた。しかしこのことを知るのは、彼女の母親と僕しか知らない。なぜなら彼女の書いた日記の最後に、こう記されていたからだ。

「このことは、ママと、そして同じクラスの笠原湊くんの心の中にしまっておいてください」

彼女の母親は、すぐ僕に手紙を書き担任に託してくらたそうだ。僕以外の生徒には、あまりにも残酷なことから事故だと告げられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る