第6章
放課後、オレンジに染まる教室。僕は忘れものを取りに戻る。教室のドアに手をかけた瞬間、誰かのすすり声が聞こえた。そして聞こえたもう一つの声。
「うぅ…私もう学校来たくない…」
「桜…私も同じ気持ちになった時あったよ。大好きな人に振られて、学校にも行きたくないし生きる気力さえ失ってた時があった」
「向日葵はどうやって笑顔に戻れたの…」
「うーん…戻れたというか、戻らざるを得なかったのかな。笑ってないと苦しくてさ!」
そう言った彼女の語尾は少し跳ねて、見えていない僕にも今、彼女が無理に笑顔を作ったのがわかった。僕は彼女の過去を聞いたことと、彼女が無理に笑顔を作ったことで、なぜか胸が締め付けらる想いになっていた。
しばらく経つと、教室からは笑い声が聞こえる。そして「桜」と呼ばれていた女子生徒がもう一つのドアから帰っていく。教室には久坂向日葵だけが残る。
気まずいけど、入るなら今だよな…
そう決心して教室に入ると、彼女はこちらを見ることなくオレンジ色の窓の外の世界を見つめていた。僕が忘れ物を探していると、
「ねえ、笠原くん」
彼女が話しかけてくる。けれど彼女はこちらを向くことはない。
「太陽ってすごいよね。あんな遠くにあるのに、こんなにも世界を色付けちゃう。それに、私たちに光と温かさをくれる」
彼女は続けた。
「寓話って何か調べたよ。イソップ寓話の話も何個か読んだ。私は北風と太陽の話が一番好きだな」
彼女の声はなぜか、とても、悲しかった。そのことが妙に虚しい。
「私ね、北風と太陽の物語に出てくる太陽になりたいの」
そう言った瞬間、彼女は振り返る。僕はハッとした。彼女は左目から大粒の涙を流し、笑っていた。夕日に照らされオレンジ色に染まる彼女の姿は、今にもその色に染められ消えてしまいそうだった。
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