第5章
気まずい気持ちだけを持って過ごす毎日。あれ以来、久坂向日葵とは顔を合わせづらい。当たり前だが男子の僕が女子の前で泣くなんて、これほどまでに情けないことはない。それが毛嫌いしている相手ならなおさら。とか思っていてもお構いなしに、
「笠原くん!おはよ!」
と普通に話しかけてくるこの女は、どこまで無神経なのだろうと思う。でもどこか感謝の気持ちがなくもない。そんな複雑な気持ちに僕は困惑していた。そして案の定イライラするという負のループ。
「笠原~宿題見せてくんね?」
そう言ってきた同じクラスの男子生徒。名前はわかるが、大してしゃべったこともない。僕はただ利用されているだけなんだろう。高校に入ってからの成績は、クラスで1位をとるような具合だった。
なんで大して仲良くもない奴に宿題見せなきゃなんないんだよ…
そう思ったが本人には言えずにいると、
「杉野!宿題くらい自分でやんなさいよ!」
そう言ったのは、また彼女だった。チェッと言って杉野くんは自分の席に戻っていく。僕はいつもと違う感情を少しだけ持って言った。
「余計なことしなくていいよ…君が嫌われるよ…」
「え?どうでもいいよ、そんなこと!私は別に誰かに嫌われても平気だから」
彼女はそう言って笑った。彼女に少しばかり心配の気持ちを持った僕は意外だったし、彼女の言葉にちょっとの影を感じたのにも違和感を覚えた。
「向日葵は本当にお人好しなんだから~私たちはそんな向日葵が好きなんだけどね!」
とケタケタ笑いながら彼女を囲むクラスの女子たち。彼女はクラスの中心的な存在だった。そんな彼女に、きっと僕は嫉妬していたのかもしれない。その気持ちが本当なのかの答えはきっと、自分と向き合うことから逃げている僕には到底出せないものなのだろう。
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