第4章
僕は苛立っていた。ただただ苛立っていた。なんでこの大人たちは自分のことしか考えられないのか、呆れてものも言えない。また始まった醜い言い争いを聞きながら腹を立てる。
「あなたはいつも自分のことばかり!どうして私の意見に耳を傾けてくれないの?」
母さん、それはあんたもだよ…
「俺はただ家族のことを思って意見しているまでだ」
父さん、それはあまりにも詭弁すぎないか…
この人たちが口にする言葉は、まるで子どもが親に必死に反抗する時に言うようなものだ。こんな低レベルの喧嘩を聞き苛立っている自分を馬鹿馬鹿しく思う。そう感じた僕は、スマホを片手に家を出た。
僕はうざったいくらい輝く太陽を背に、田んぼがどこまでも広がる田舎道を歩く。スマホに映し出された時刻は、午後3時を回っていた。
なんだってあんなに幼稚な喧嘩ができるんだ…仮にも大人だろ…
そんなことを思った瞬間、僕の頭にひとつの映像が流れた。それは見覚えのある教室。そう、中学時代の教室の映像だ。教室にはたくさんの生徒がガヤガヤと日常を過ごしている。その中に一人、席に着きうつむいている僕。
「なんか、笠原くんって冷めてるよね。てか、なんかすかしてて近寄り難いよね」
なんてボソッと女子生徒がつぶやいたのを、僕はしっかり聞いていた。僕は…孤立していた。そんな映像が一瞬にして頭の中で流れる。
違う、僕はただあの人たちみたいな大人になりたくないんだ。
中学の時も、今も、そう強く思っていた。そんな中学の頃の僕に友達と呼べる存在はいなかった。まあそれは、今だって変わらないのだけれど。しかし高校では中学と違って、孤立しているのが気にされない環境だった。それが救いだ。僕は僕のペースでスクールライフを送ることができている。中学の頃の地獄とは比べものにならないくらい、ずいぶんと楽な世界。
キキ――――ッ
そんなことを考えていた時、錆びた自転車のブレーキがかかる音が鳴る。そこにいたのは、僕の大嫌いな彼女だった。
「笠原くんだ!おでかけ?」
またコイツか…なんでこんな気分が悪い時に…
「まあ…そんなとこ」
僕は適当に答える。それでも彼女は僕に話し続けた。すると彼女から意外なことを聞かれた。
「ねえ、笠原くん。なんで泣いてるの?」
え…僕が泣いてる?そんな馬鹿なことがあるか…
自分の頬に手を当てた。濡れている。涙が一筋流れていた。そんなことがあるのかと驚いた半面、なぜだか冷静な自分がいた。きっと僕はこの涙の意味を、一瞬にして理解してしまったのだろう。
「別に…なんでもない」
「そっか」
彼女はいつもみたいにしつこく聞いてくることはなく、ただただ優しく落ち着いた声でそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます