第3章
ある日の体育の時間。初夏らしい真っ青な空の下、課せられたランニングをしていた僕の体は、清々しい天気とは裏腹にどんよりと重かった。
やば…体だるすぎ…
一歩一歩踏み出す足が、だんだんと前に出なくなる。そしてとうとう僕の足は止まり、体が前に斜めっていく。力が入らない。踏ん張ることもできない。
いいや、このまま倒れてしまおう…
バタンっと僕は地面に叩きつけられた。その後のことは覚えていない。気づいたら、目の前には保健室の天井があった。僕は自分がランニング中に倒れたことをすぐに理解した。
風邪かな…
「風邪かな?」
僕は一瞬、自分の思ったことを声に出してしまったのかと戸惑う。しかしそう発したのは僕ではなかった。心配そうにそうつぶやいたのは、ベットの横に座っている久坂向日葵だった。
なんでまたコイツがいるの…
今度は確実に心の中でそう思った。もちろん声に出すことはしない。彼女は立ち上がって僕の顔を覗き込む。そして僕のおでこと自分のおでこに手をやった。
「うーん、さっきから熱はないのよね」
「は?さっきからこんなことしてんの?人が寝ている間に…」
「だって体温計の場所、わからないんだもん」
そうやってちょと照れくさそうに笑う彼女に、また腹が立つ。
コイツ、だから嫌い…
僕は彼女が嫌いだった。春に同じクラスになった時からずっと。いつもヘラヘラと笑っている彼女が気に入らなかったのだ。何がそんなに楽しいのか、僕には理解不能だった。
「僕、もう平気だから」
そう言い残し僕は保健室を出た。ドアを閉める瞬間に見えた、初めて見る彼女の悲しそうな表情を見なかったことにして。
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