第3話 神と名乗る謎のロリ
暗闇。
立ってるのか座ってるのかそんなことすらわからなくなるような暗闇に俺はいた。
確か俺は手を引かれてーー先ほどまでいた場所のことを思い出そうとするが
それを暗闇が邪魔する。このあらゆるものを染めあげる純粋な漆黒を見ていると
何もかもがどうでも良くなってくる。
俺はこの闇に身を落としていた。
突然、この場を支配していたそれが消える、そして辺り一面にまるで
スクリーンに映し出されてた映像のようにどこかの風景が流れる。
これはーー今まで生きてきた異世界だ。
今まで俺がやってきたことが辺り周辺に映し出されていた。
そうだ。俺はいつも異世界に来て魔王討伐を頼まれて
今のままじゃ絶対に勝てないから死ぬ思いで努力して
そんな俺のことを仲間たちは尊敬してくれて
信頼してくれて、そして俺も彼らを同じように尊敬し、
信頼してた。
でもそれは彼らにとっては表面上でしかなかった。
「あいつ、いくら魔王倒すため後はいえ、努力しすぎじゃね?
飯と寝るとき以外、ずっと鍛錬。自分がいた世界じゃねえ
っていうのになんでそこまでするんだろうな?」
「さあ?でもあいつ正直不気味よね。いくら鍛錬しまくってるとはいえ
なんか強くなるの早すぎだし、今日のあれ見た?
魔王の幹部一人でやっつけちゃうんだもんなー。
おかげさまで私らなーんもやる事なかったよ。あんなのもう人間じゃないよ。」
「確かに。今彼が人類にたいして敵対行動をとったとして、
それを防ぐ術はありませんからね。
出来るだけこちらが友好的に接して人類に悪感情を芽生えさせないように
しなくてはいけませんね」
最初の転生の時はそういう見方もあるのか、といい気分はしなかったが
まだ、許容が出来る範疇だった。まだ心には隙間があった、余裕があった。
しかし、転成するたびに同じように扱われ、
もう、耐えきれなかった。もう心には隙間はなかった。あふれてしまったのだ。
俺はだんだんと人を信用できなくなっていった。
俺はだんだんと勇者が、人のために戦うのがいやになっていった。
だからだろうか。死ぬとわかっていても怖くなかったのは。
恐怖で体中がいっぱいにならなかったのは。
再び辺りが暗闇に包まれる。あの時手を引いてくれたあれは
走馬灯だったのだろうか?実はあれは俺が見た、感じた夢のような
何かで本当はもう俺はーー。
暗い思考が頭を支配する。もしそうなら
俺はやっと解放された。勇者という職業に。
瞬間、暗闇が引き裂かれる。直視するには眩しすぎる、純白の
光が差し込んだのだ。空間に入る光量が徐々に増えていく。
その光はどこか暖かく、安心できる、不思議な感覚だった。
体全身が光に包まれたとき、視界が閉ざされた。
朧気な意識が徐々に冴えていく。
気が付くと俺はベットのようなものに横になっていた。
先程のあれは夢だったらしい、視界は暗闇ではなく
窓から入ってきた日の光に照らされている。
身体の調子を確認する。魔力の殆どを使ったせいだろう、どこか
いつもより身体が動かしにくい。節々もわずかに痛む。
だが、逃走に支障が出る範疇ではない。
逃走ーーその言葉聞いたとき昨日の記憶が脳内で思い起こされる。
そうだ。俺は逃げていたんだ。こんなところでくつろいでいる場合
ではない。
俺はベットから身を起こし、周囲を確認する。
すると、俺の横にいる名も知らぬ少女と目が合う。
少女が話しかけてくる
「状況確認は済みましたか?出来れば落ち着いてこちらの
話を聞いてくれると嬉しいのですが。
ああ、一番大事なことを言い忘れてましたね。
貴方を兵隊たちから助けたことからも十分わかると思いますが
私は貴方の敵ではありません。まあ、味方と決まったわけでもありませんが」
俺は少女の話をよそにこの家の玄関まで何秒でたどり着けるか
計算していた。およそ4秒。互いの立ち位置を考慮すると……
ほぼ間違いなく妨害を受けずに脱出できる。
だが、王城を脱出したときのように動きを止まれているとしたら面倒だ。
一先ずはこの少女の望み通り対話に応じることにする。
「……お前が俺を助けたことはお前が俺の敵ではない事とイコールではない。
お前が俺を商品、もしくは取引の材料にするために助けた……という可能性があるからだ。敵ではないというのならば他のやり方で証明して見せろ。」
目の前の少女は俺が反論してくることを想定していたようだ。表情が全く変わらない。
「確かかにそう言われてしまえばそうですが。どうしましょうか?
では、逆にどうすれば納得してくれますか。どうすれば貴方の敵ではないことを理解してくれますか?」
質問を質問で返してきやがった。疑問文を疑問文で返すなと小学校で習わなかったのか。まあ、この世界にそういった教育機関があるかどうか知らないが。
考えてみるが……結論は出ない。出たとするならば、
「ない。この状況においておまえを敵と認めることは不可能だ。
俺はこの世界のことを知らなすぎる。嘘がつけなくなる魔法があったとしても
その発動条件、発動を示す何かしら、そもそも魔法自体もよく分かっていない。
やはりどうやったって無理だ。だからーー」
俺は高速で寝具に身を滑らせながら降り、座っていた少女の喉仏に手刀を向ける。
「今から俺の言うことに従え。逆らえば喉を引き裂く。」
武力で脅す。既に周辺に仲間らしきものがいないことは魔力感知(自身の魔力を
極小化して放出し、放たれた極小魔力の反応によって周囲の魔力を感知する。)
によって把握済みだ。手荒な真似はしたくなかったが仕方ない。
少女は少し残念な、悲しんでいるような顔をする。そこに恐怖はなかった。
「……やればいいのではないですか。さあ、早く引き裂いてみればいいですよ。
その手で私の喉を裂き私を殺して逃げればいい。
でも、あなたにはそんなこと出来ないですよね。だって貴方は悪人じゃない。
優しい人だから。」
こいつ……少女の顔をいくら見てもそこに恐れ、死の恐怖はなかった。
まるで俺がそうできないこと、いやこういうことをしたことがないことを
知っているかのようだ。
俺が、さらなる脅し文句を考え選びあぐねていると
少女がどこかクスリと笑うかのように口角を上げて言った。
「そもそも貴方に私を殺すことは不可能ですよ?
だって私、神様ですから」
瞬間、感じたことにない感覚、殺気とは違うどこか懐かしい、しかし恐れおののくような、生物としての格が違うことが瞬時に分かってしまうような、
そんなものを感知した。
魔王なんて倒してやるかよ 鯖の水煮大好き @Selamantpagi
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