第2話 この異世界はどこかおかしい



 壁に足をこすらせてスピードを落としながら城の外壁を降りる。

またその間に自身の体の調子を確かめる。

自分の体の中に意識を向けるとそこには血液とは違った液体のような物の存在が確認できた。やはりこの世界にもあったか。

この世界ではなんと呼ばれているのかは知らないが元いた世界では《

魔力》と呼ばれていたものだ。


 俺はその魔力を体全身に駆け巡らせるようにコントロールする。

悪くない。使用感は前の異世界と同じようだ。


 確認がすんだところで、

意識を戻し足をつける瞬間に魔力を足に集中させて地面に着地する。

魔力は全身に循環させれば、

体全身の身体能力上昇、体一部分に集中させればその箇所の身体能力を

飛躍的に上昇させることができる。

元いた世界でも思ったが、相変わらず特異な性質だ。


 着地と同時に発生した音で城前の門を守る兵士がこちらに気づく。


「き、貴様は例の勇者か!?こんなところでで何をしている!?」


 見た様子だと兵士が4~5人、魔法使いらしき者が2人。

制圧は不可能ではないだろうが、

戦闘で足止めを食らっている間に援軍がくると厄介だ。


 俺は足の力を込めて、兵士と魔法使いの頭上を跳んだ。

門の壁を蹴ることで更に跳ね上がる。そのままの勢いで門を越え着地する。

兵士たちは呆気にとられていたようだ。口を開けていた。

もしかしたらこの世界ではこういった魔力の使用はしないのかもしれない。

何にしてもチャンスだ。後は一直線に走って今と同じ要領で門を飛び越えるだけだ。

俺は再度魔力を足に込め地面を蹴る。その時、甲高い笛の音が耳に入った。


 なんだ!? 走りながら後ろを確認する。

先程の兵士が笛のようなものを吹いていた。

そしてそれと同時に城の正面扉があいた。目を疑った。

そこからは恐らく100以上はいるだろう兵隊がでてきたのだ。

中には兵士のような甲冑ではなく一見ただの洋服のようなものを着ているやつもいる。


 どういうことだ。対応が早すぎる。まるで俺が逃げ出すのがわかっていたようだ。


「脱走したのは勇者一名。生死は問わん。絶対に逃がすな!!」


兵士らしからぬ格好をしたやつがそういうと兵隊は一斉にこちらに向かってきた。

 考えるにあれは指揮官のようなものなのだろう。

だがそこは問題ではない。大事なのは生死は問わないと言ったことだ。

おかしすぎる。世界を、国を救うはずの勇者を救われる側の国が殺すなど。

疑問は尽きない。だが考えている暇はない。俺は前に向き直し走る。


 直線の道を半分ほど行ったところで不自然な音が聞こえた。

何かが燃えているような、バチッバチッといったような。

風を切るような音とともにそれが近づいてくる。

何かが来る!!咄嗟に左に跳ぶと、先程いた場所に炎の玉が飛んできた。

当たるはずだった対象を失った炎の玉は近くの民家にぶつかり民家の壁を燃やした。


 間違いない、魔法だ。魔法があるとなるともう門を飛び越えて逃げることは出来ない、対空中を狙われたら避けようがないからだ。

作戦を変更するしかない。

俺は辺りを見渡す。直線の道のほかに脇道があったはずだ。

すぐ先にそれを見つける。俺は駆け出した。








 家と家との隙間から周囲の様子を窺う。ただいま絶賛かくれんぼ中だ。

ただし、見つかったら死が待っている。闇のゲームだ。

窓から見た際に門とこの城下町を覆う壁の高さが同じことは把握済み、

どうにか抜け道を探して壁まで近づきたい。


 俺は周囲に兵士がいないことを確認すると隙間から出て物音を立てないように移動し、壁側にいけそうな手頃な道を発見する。

よし。その道に進もうと足を向けたとき、視線を感じた。

道の奥から兵士が一人出てきた。目と目が合う。

またさっきのように笛を吹かれたら相当不味い。


 先手必勝。相手との距離を詰めようと足に魔力を込める。が、思ったように魔力が集まらない。

これは、、、、魔力切れか。

 今までは転生したときは魔力のコントロールとともに魔力量なども変わらなかったのだが。チィ、思わず舌打ちをつく。本格的に不味い。

気づけば兵士がすぐそこまで来ていた。


「ここで投降すれば生きたまま城に返してやる。地面に座り、手を頭の後ろで組め!」


魔力が殆ど切れた今の状態で相手を短時間で倒すとなると、カウンターを狙うしかない。


「誰が世界を救う勇者様を殺そうとしている国に仕えるかってんだ、

ほら、かかって来いよ?俺を殺してみろよ。てめえのような三下兵士にできるんならなぁ?」


わかりやすいベタな挑発だ。相手が乗るかどうかは一か八かだ。


 ヘルメット越しではっきりとはわからないが兵士の雰囲気が変わった。

よし、賭には勝った。

瞬間、兵士が抜刀し俺の心臓めがけて剣を突き出す。

速い。が、見切れないわけではない。

俺は剣筋を見切るとかするギリギリのところで躱し兵士の背後をとる。

そして右手に残りのありったけの魔力を込め、首に手刀をはなつ。

鈍い音とともに兵士が膝から崩れ落ちた。


ほぼ理想通りに動き倒せた、しかし今ので魔力の殆どは使い切ってしまった。

これ以上は、、、、

俺の思考を遮るように兵士たちの声が大声が響き渡る。


「こっちだ!こっちの方で兵士の反応が消えた!」


 その声が聞こえた瞬間体全身から力が抜けた。

そんなもんまでわかんのかよ。遭遇した時点で詰みってことかよ。

その場をすぐにでも逃げ出したいが魔力切れのせいで意識が不安定だ、

それにどこに逃げればいいのかもわからない。

これは、、、マジで終わったか?


 死がすぐそこに迫っているのが分かる。だが不思議と恐怖は感じていなかった。

やっと終われるのだ。やっと勇者という肩書きが外れるのだ。

もううんざりだった。自分とは関係のない世界の命運なんていう大それたもののために戦うのは。勇者というレールの上に乗るのは。

所詮、俺のことなど皆、魔王を倒してくれる便利マシーンとしかおもっていないのだ。与えられた仲間たちが信用している、頼りにしているといってくれたが

陰で俺のことを化け物扱いしていたのしっている。そりゃそうだ。魔王を倒す力を持った人間。それがもし人類にたいして悪意を持ったら、

それはもう魔王と何ら変わりない。

結局、表面上だ。上っ面だけの関係性なんだ。

  

 思い返してもろくなことがなかった。こんなもんなのか俺に人生は。

気持ちが完全に生きることを諦め、意識が闇の中に吸い込まれていく。

その時、手に暖かな感触を覚える。

耳が微かに呪文のようなものを呟く音を拾う。


「こっちです。ついてきてください。」


今度ははっきりと聞こえた。意識が朦朧としながらもその声に導かれるように歩く。右、左、まっすぐ、そして右。数分程歩いた後、不意に進まなくなる。


「着きました。この中ならひとまずは安心です。さあ、中に入ってください。」


もうすでに体力が限界だったのか。それともその暖かくて、優しい、どこか

懐かしい声を聞いて安心したのか、俺の意識は唐突に糸が切れたように途切れた。


「・・・おやすみなさい。」


その声は聞こえなかった。















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