数学証明小説
阿井上夫
数学証明小説
アダムス家とスミス家は、ユークリッド王国の二大貴族である。
そして、アダムス家の長女であるメアリと、スミス家の嫡男であるエドワードは、実は人目を忍んで会うほどの仲であったが、それは決して表に出してはいけないことだった。
今日もエドワードは、アダムス家の敷地内に忍び込み、二階の窓辺に佇むメアリに語りかけた。
「僕と君は、決して交わることができないんだよ、メアリ」
「どうしてなの、エドワード」
「それは、王国の秩序を維持するために欠かせない
「ああ、どうして私たちはそんな残酷な世界に生まれてしまったの、エドワード」
メアリが窓際で泣き崩れる。
エドワードは、そんな彼女を
「ああ、メアリ。人はそれを錯覚と呼ぶかもしれないけれど――」
大きな瞳を涙で濡らしながら顔を上げるメアリ。
エドワードは微笑みながら語りかける。
「――お互いの家が決して交わることのない関係であったとしても、僕と君の視線がまっすぐに結びついてさえいれば、僕と君のこころの中には同じ想いがあると信じることができる。それによって、二人は常に向きあっていて、そこには何のゆがみもないことが分かるんだ。これは僕と君との間の、定められた
「ああ、エドワード。そう言っていただけるだけで、私は嬉しい」
「僕もさ、メアリ。この世の中に真実は一つしかない。僕と君の愛がそれを証明しているんだ、メアリ。そしてもし、この世の中からユークリッド王国がなくなった時、二人の願いは叶い、それは世界の真実になるだろう」
「ああ、エドワード……貴方まさか」
「そのまさかさ、メアリ。僕はこれから革命軍に身を投じるつもりだ――」
そして、エドワードはメアリの目をまっすぐに見つめて言った。
「そしていつの日にか、必ず君を迎えに来る」
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
まず、点Aを上として時計回りに点Bおよび点Cを置く。
続いてABCを線で結んで三角形ABCを作る。
続いて、底辺BCに平行で、かつAを通る線DEを描く。
その際、Dのほうを向って右側とする。
平行線における錯角は等しいので、角ABCと角BADの角度は等しい。同様に角ACBと角CAEも等しい。
そして、点Aを通る平行線上に、角BAC,角BAD(=角ABC)と角CABと角CAE(=角ACB)がある。
したがって、三角形ABCの内角の和は百八十度である、と証明される。
なお、この証明は「平行線の錯角は等しい」という前提に基づいているが、これは「もし平行線の錯角が同じでないと、平行線が交わるという矛盾が生じる」という逆の考え方が元になっており、証明されたものではない。
このような「ユークリッド幾何学では絶対に守らなければならないルール」のことを公理(今回は”平行線公理”)と呼ぶ。その公理を使って求められるのが定理だ。
ちなみに、曲面上の平行線の場合にはこの公理が当てはまらなくなるので、その場合には「非ユークリッド幾何学」の適用範疇となる。
( 終わり )
数学証明小説 阿井上夫 @Aiueo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます