極秘会談

秋野大地

第1話

 北京のとある密室で、極秘の会談が開催されていた。

 ある国の首脳二人が高級ホテルの一室で、リビングテーブルを挟み、ソファーに背中を預けて向き合っている。

 テーブルにはそれぞれの前にコーヒーが置かれていた。

 人払いされた広いリビングには二人きりだが、二つのベッドルームにはそれぞれのボディガードと官邸スタッフが待機している。ホテル内外の各所にも私服のSPが立ち、周囲に異様な眼光を走らせていた。


「僕はね、習ちゃんをすご腕の政治家だと認めている。ただね、ちょっと強引過ぎると思うんだ」

 習ちゃんと呼ばれた男は、自分のことを棚に上げてよく言うよと思いながら、四角い顔に笑みをたたえた。

 彼は笑うと、とても温厚そうに見える。

「いやいやトラちゃん、時には強引に進めないとやっていけないんだよ。国民も党幹部も軍もみんなくすぶっている。不満だらけで、そこら中に煙がのろしのように上がっている。軍のクーデターだって心配しなきゃならない。トラちゃんだって同じじゃないか。そこでみんなにいい顔していたら、真っ先に国が崩壊しちゃう。それにいい顔したって誰の不満も消えやしない。人間の欲望は際限ないんだ」

 トラちゃんと呼ばれた人物は、元々赤らんで見える顔をますます赤くして笑った。

「それは理解する。僕だってアンチ大統領派がいつでも僕の首を狙っている。みんなが虎視眈々と、その機会を伺っている。弾劾裁判なんかも画策されて、少しでも気を抜いたら僕なんか直ぐに吹っ飛んじゃうよ。だから国の崩壊より、僕は自分のことが心配なんだ。習ちゃん、あんただって同じじゃないのか?」

 二人で同時に笑った。少し乾いた、作り物の気配が漂う笑いだった。

「トラちゃん、気を抜いたら僕は死ぬけど国も死ぬ。それが現実なんだ。あんただから本音を言うけど、この国はね、ほとんどの資源を祖先に食い潰されて、今はもう何も残っていない。それに科学技術の蓄積も乏しい。そんな状況で国を発展させるために、資源は強奪してでも確保するしかないし、技術も同様だ。そうするしかこの国に未来はない。強奪はいかんとか綺麗事を言っていたら、言い終わる前にこの国は死ぬ。この国に死なれたら、世界の生産工場を失って世界中が困るはずだ」

 トラちゃんは少し顎を引き、上目遣いで習ちゃんを見た。

 会談の本題は、世界が注目する貿易戦争の件だった。その戦争の裏には、もうこれ以上、人のものを盗むなというメッセージが隠されている。

 ここで本音を言われると、トラちゃんは苦しい。しかもその話しには脅し文句まで入っている。

 彼は喧嘩に持っていきたかったのだ。最後は机をバーンと叩き、俺を怒らせたら後は知らないよと恫喝どうかつし、相手を屈服させたかった。

 しかし流石に習ちゃんはしぶとい。本音を暴露しながら逆に脅しを掛けてくる。

 これまでもそうだった。トラちゃんの怒りに習ちゃんは簡単にひれ伏すと思っていたが、彼は思った以上にしぶとく、トラちゃんの喧嘩政策にことごとく報復措置を仕向けてくる。

 トラちゃんが言った。

「そんな本音を漏らすなんて、習ちゃんらしくないじゃないか」

 習ちゃんは、再び乾いた笑い声を漏らす。

「いや、トラちゃん、これは真面目に死活問題なんだ。だから今回、こちらは一歩も引けない。そりゃトラちゃんの顔を立てて譲歩したいのは山々だよ。けれど、したくてもできないんだ」

「だからといって、人のものを盗んでいいという理屈にはならないじゃないか」

「トラちゃんの国だって、元々は先住民を脇に追いやって築いたものだよ。それにたくさんのユダヤ人を雇って科学技術を発展させた。金融だって優秀なユダヤ人が助けてくれた。そのおかげでさ、トラちゃんのところはどんなに台所事情が苦しくても、最後はお札を印刷すればどうにかなるし、実際どうにかなっている。しかしね、この国はそうはいかない。こちらにそういったディスアドバンテージがあることを忘れてもらったら困る」

 習ちゃんの顔にはまだ笑顔が残っている。しかしその目には、百戦錬磨のしたたかさが秘められた鋭い光が宿っていた。

 ツボを押さえて威嚇する、不気味で力強い眼光がトラちゃんを捉える。

 そうなると、少し頭の弱いトラちゃんは焦ってしまう。彼はこんなふうに論理的で理知的な協議が苦手で嫌いなのだ。

 彼が得意とするのは、もちろん激情型協議だった。テーブルをバーンと叩き、怒りに任せて自分の我儘を押し付けるやり方だ。そうなってしまえば、理屈も正義も何も要らない。あるのは欲求のみで、それを飲まなければどうなっても知らんぞという恫喝である。

 そもそもトラちゃんは、恫喝したいのだ。その恫喝に相手がひれ伏すのを見て、優越感に浸って幸せな気分を味わいたい。しかし最近はマスコミがうるさい。できればスマートに事を運び、有権者や世界の自分に対する評価を少しでも良くしたい。

 トラちゃんにはそんな思惑があるせいで、この交渉は我慢が大切だと自分にくどいほど言い聞かせている。

「習ちゃん、我が国はね、人の助けはもらったけれど強奪はしていない。そんなことをすれば世界から袋叩きだ」

「それは表立ってはしない、ということじゃないの? 湾岸戦争は何だったの? 石油利権の確保が目的に見えたのは気のせいかなあ。最近はなんだっけ……、そうそう、車のエアバッグに難癖付けて日本の会社をつぶしたよね。ワーゲンにもイチャモン付けて出る杭を打ったなあ。目立たない強奪はしっかりしているし、奢りたかい押し付けを散々しているじゃないの、トラちゃん」

 痛いところを突かれて、トラちゃんは辟易とする。彼は頭の中で、我慢のニ文字を念仏のように唱えた。

「習ちゃん、昔のことを蒸し返されも困るよ。それを言うならチベット侵攻、ウイグル人強制収容、南沙諸島領有問題みたいに、こっちにも言いた事は山ほどあるのに、僕はできるだけ罵り合いを避けようと努力しているんだから、そこんところは分かって欲しいね」

 習ちゃんは、トラちゃんがタジタジになるのを見てとり少々図に乗った。

「そのところで言えば、あなたに何の権限があってそんなことに口を挟むの? それらは最初から、お門違いってものじゃないの? 内政干渉はいい加減自制して欲しい」

 ここでトラちゃんは、突然念仏を忘れた。彼の顔がみるみる赤らむ。

「習ちゃん、いくらあんたでも言っていいことと悪いことがある。我が国は世界のトップなんだ。世界平和に貢献する義務と責任を負っている。そのトップのトップがこうして話しているのに、あんたには僕に何のリスペクトもないのか!」

 トラちゃんは、ついつい本音を吐き出した。われはキングオブキングなんだという本音だ。

 荒らげたトラちゃんの声を聞き付け、双方の国のSPが同時にベッドルームからリビングに飛び出した。いずれも右手がスーツの中に差し込まれ、直ぐに拳銃を取り出せる格好だ。

 流石にトラちゃんはそれを見て慌てる。彼はまあまあとSPをなだめる仕草をし、習ちゃんも自国のSPに、問題ないから引っ込めと手のひらをふって退けた。

「すまん、ついつい興奮した」トラちゃんが謝る。

「相変わらず瞬間湯沸かし器なんだから」と習ちゃんが言った。

 また二人が同時に笑う。少し笑いが引きつっていた。笑いが止まると、静寂が二人を包む。トラちゃんが咳払いし、習ちゃんはコーヒーを口に運んだ。

 沖縄米軍基地、台湾、尖閣、南沙領有問題。これらには、あまり報道されない共通問題が隠されている。それは資源だ。日本の貨物船も、この領域を一日三百も通過する。それは中国のタンカーも同じだ。もしここを封鎖されてしまえば、大動脈を遮断されたも同然で、国はすぐ様死に至る。だから習ちゃんは日米を分断し沖縄から米軍を撤退させたいし、台湾や南沙諸島を配下に収め、そこでの米軍活動を封じ込めたい。

 ロシアが北方領土の返還に決して応じないのは、そこに米軍が駐留されたら困るからだ。日本政府はそのことに気付いていて、領土返還が実行されても米軍の駐留はないと約束しているけれど、ロシアはそんな約束を信じない。政権が変われば約束がどうなるか分からないし、そもそもアメリカがそこに基地を置くと決めれば、日本政府の意向に関わらず、おそらく米軍基地ができるからだ。

 南沙諸島に関して、P国のドテちゃんは仲裁裁判所に異議申立てをした。判決はドテちゃんの大勝利で、習ちゃんの主張を一切認めないというものだったが、習ちゃんは図々しくも、この判決に従わないと高らかに宣言し無視した。それに合わせるようにトラちゃんの陣営が、我が国はドテちゃんの国を守ると宣言した。

 タンカーが通るこれらの海域は、習ちゃんにとっては最大の関心事で、だから彼は台湾にこだわり続ける。

 習ちゃんは、バックアップとして陸地に資源の運搬ルートを確保したいから、別で一帯一路構想をぶち上げ、着実に実績を上げ始めている。苦しい相手国を借金漬けにし、返金困難になってから、例えば港の使用権などを半恒久的に取りつけるやり方だ。まるで女をシャブ漬けにし、なんでも言うことをきくようにする暴力行為と似ている。

 P国のドテちゃんも、このトラップに足を踏み入れ始めている。最近P国には、習ちゃんの国の単純労働者が大量に流れ込んでいるのだ。十六年から十八年の三年間で、二十万人もの習ちゃんの国の作業者がP国に流入している。

 これは現在進行中の、P国が習ちゃんの国から一千万ドルの資金援助を受ける計画に関連し、入国条件で優遇されていると見られている。背後には、怪しい密約じみたものが見え隠れしている。

 そんな習ちゃんに対しトラちゃんは今度、兵糧攻めに出た。それが今回の、貿易戦争の背景だ。

 表面上習ちゃんは、この売られた喧嘩はきっちり買ってでると表明しているが、実のところとても痛いはずだ。だから彼は、強気に振る舞いながら微妙にトラちゃんへ気を使っている。これまで大々的にぶち上げていた半導体産業に関する構想も、表立って口にしなくなった。

 習ちゃんの国で、半導体の設計と製造が派手にできるようになったらどうなるか。今は設計できるけれど、製造は機械を入手できずに中々前へ進まない状況なのだ。

 もし習ちゃんが半導体業界のイニシアチブを手中に収めたら、世界中のメーカーにとって大脅威となる。競合の半導体メーカーに限らず、半導体を使う民生や自動車産業にとっても、先行きの読めない事態になり得る。特許やライセンスなどに全く無頓着な国なのだ。世界中の先進製品で使用されるアームアーキテクチャが、世界中に安く出回る可能性も高い。

 現在、サムソンが世界一の半導体メーカーになったけれど、その背景には日本の技術供与が大きく絡んでいる。離れを貸して母屋を乗っ取られた状況になったのだ。これがもし習ちゃんの国で再現されたらどうなるか。国の莫大な軍資金をバックに攻勢をかけられたら、普通の民間企業は立ち向かえない。バタバタと有名どころが消えていく。

 習ちゃんの戦略も手腕も大したものだと思うけれど、着実に各方面に触手を広げる彼は、トラちゃんの国にとって脅威でしかなくなっている。

 そして、ここでもしJ国の晋ちゃんが習ちゃんに取り込まれてしまえば、習ちゃんの夢物語のような構想は途端に現実味を帯びる。考えただけでもおぞましい。

 トラちゃんにとり、ここは踏ん張りどころだった。

「習ちゃん、あんたのやり方の問題はね、普通の自由競争ではないところなんだよ。国の資金を潤沢につぎ込む会社に、資本主義の民間会社がかなうわけがない。体力勝負になったらお手上げだ」

「しかしね、地道に勝負したんじゃ追いつけないし追い越せない」

「いや、最近のIT業界の中は浮き沈みが激しいし、大きくなる会社の成長速度は尋常ではない。要はアイディア次第だ。しかしあんたの問題は、その肝心なアイディアを盗んで平気で使うところにある。しかも国の膨大な資金を注ぎ込んでだ。そうであるなら、こちらとしても対抗するしかないじゃないか」

「対抗すればいい。受けて立つ。我が国は伝統的に、長期戦に強いんだ」

 それは強がりであることを、トラちゃんは知っている。しかし強がりとはいえ、キングオブキングの自分へ真っ向からそんなことを言う習ちゃんに、トラちゃんは次第にむかつきを覚え始めた。

「確かにあんたのところは、長期戦に強いだろう。しかしね、本当にそうなら、こちらも別の手を考えなきゃならん」

「別の手? はて、そんな奥の手がまだあんたのとこにあるとは思えないんだが。見え透いたはったりはあんたの株を下げるだけだよ」

 ここでトラちゃんに、我慢の限界がやってきた。俺様に喧嘩を売るなど、千年早いということを、今一度思い知らせる必要がある。

 トラちゃんはベッドルームに待機する部下を呼び付け、耳打ちした。

 言いつけられた部下は即座に顔色を変え、「そ、それは……」と言葉を失う。しかしトラちゃんは 「構わん、早く持ってこい」と怒声を上げた。

 一分後、部下が習ちゃんとトラちゃんの前に運んだものは、一つのアタッシュケースだった。

 それを見た習ちゃんも、途端に顔色を変える。

「ま、まさか、あんた……」

 習ちゃんも、慌てて部下を呼び付け耳打ちした。やはりその部下も顔色を変えたけれど、習ちゃんがトラちゃんの目の前にあるアタッシュケースに目配せすると、部下は納得したように別室へ引っ込み、同じようなアタッシュケースを習ちゃんの前に運んだ。

「トラちゃん、あなたは奥の手と言ってそれを用意したが、そういうことならこちらも同じような準備がある」

「そんなことは分かってるよ。問題は、これのボタンを押す勇気があるかないかなんだな」

 その言葉が習ちゃんを刺激した。

「こちらにその勇気がないとでも?」

「ないね。武力衝突になればどうなるか、あんたは最初からその結果を熟知しているはずだ」

 トラちゃんが、自信満々に言った。

「いくらトラちゃんでも、その言葉は酷い侮辱だ。そうなら度胸比べを試してみようじゃないか」

 習ちゃんがトランクケースを静かに開ける。そこには、指紋照合装置や計器類が並び、透明なプラスティックカバーでガードされた赤いボタンがあった。習ちゃんに合わせ、トラちゃんも自分のケースを開ける。習ちゃんの物と同じような計器やスイッチがそこにぎっしり並んでいる。

 二人で顔を見合わせた。意地と意地のぶつかり合い。

 習ちゃんが先に口を開く。

「僕に度胸があるかないか、よく見届けて欲しい」

 習ちゃんがケースの中にある装置を操作し始めると、ピーとかプーという音に、何やら習ちゃんの国の言葉でアナウンスが流れる。

 習ちゃんがトラちゃんを見て、ニヤリと嫌らしい笑みを顔に浮かべた。そしてボタンを押す動作に続いて、カウントダウンらしいアナウンスが聞こえる。

 習ちゃんが顔を上げ、ますます不敵な笑みをトラちゃんへ投げた。

 ここでトラちゃんの顔が引きつった。ここで負けたら、ますます国民や世界中から馬鹿大統領と罵られる。それがトラちゃんには、耐え難い一番の仕打ちなのだ。

 トラちゃんも急いで装置を操る。しかし慣れていないようでまごついた。そして遂に額に汗を浮かべた顔が上がり、トラちゃんも不敵な笑みを浮かべる。

 今度は習ちゃんが顔をひきつらせた。

「トラちゃん、まさか、もう発射したんじゃないよね」

「度胸の問題と言ったじゃないか。そっちが発射したなら、こっちだって発射するしかないさ」

 今度こそ、習ちゃんは慌てた。

「ばか、こっちはまだ発射準備段階だ。最終指示は最終意思確認のあとにするもんだろう、普通は。それで、本当に発射しちゃったの?」

「え? もうしたけど」

 習ちゃんは呆気に取られて、一瞬言葉を失ったけれど、数秒で我に返った。

「発射したミサイルは何だ? 標的はどこ?」

「標的は北京に決まってるじゃないか。誰もいない田舎に撃ってどうするんだよ。ミサイルは最新式の核弾頭を積んでる」

「あんたも北京にいるのに、標的が北京?」

 トラちゃんが目を丸くした。

「あっ!」

「ばか! 早く取り消せ」

「キングオブキングに向かって、ばかばか言うんじゃない」

「え? ああ、それは謝る。謝るから、早くそのミサイルを何とかしてくれ。着弾したら、あんたまで一瞬で蒸発するんだぞ」

 蒸発という言葉に、流石にトラちゃんも慌てたが、ここで大きな問題が起きた。

「習ちゃん、発射方法は分かるけど、取り消し方法は知らないんだ」

 習ちゃんは口を開けて、動作が止まった、……が、すぐ様我に返る。

「だったら早く知ってる人間に聞いてくれ」

 トラちゃんは官邸スタッフを呼び付け、すぐにホットラインで本国へ電話するように言った。

「習ちゃん、あんたのとこに、ミサイル迎撃用のパトリオットはないのか?」

「そんなものがあるわけないじゃないか。あんたが売ってくれなかったじゃないか」

「あっ、そうだった」

「しかしこっちにも、優秀なミサイル迎撃システム、『迎撃』がある」

「そままじゃないか」

「名前なんてどうでもいい。とにかく今、迎撃発動の指示を出した。太平洋上で爆破する必要がある。もうあまり時間がない」

 そこへトラちゃんのスタッフが、電話が繋がったと言って少し大きめな携帯端末を持ってきた。

 トラちゃんは本国と話して、習ちゃんに言った。

「どうやら一旦発射されたら、我が国からの追撃は不可能らしい」

 習ちゃんは仰天した。自分たちに迎撃システムはあるけれど、これまで試したことがない。命中率は百パーセントではない、という裏情報だけは聞いている。

「そしたら、こっちの迎撃システムで何とかするしかないってことか?」

「いや、自爆システムがあるらしい」

「ばか、早くそれを言え。だったらすぐに自爆させてくれ」

 ちょっと待ってと言い、トラちゃんは電話の相手と話しながら、ミサイル発射装置を操作する。

 みんなが固唾を飲んで、それを見守った。普段からどうにも頼りないリーダーだけれど、機械操作となれば尚更だった。

「大丈夫か? 何とかなりそうなのか?」

「たぶん……」トラちゃんは自信なさげだ。

 トラちゃんが自爆用暗号を打ち込み、電話の相手から指示される通り装置を操る。そしてピーという少し長い音が出て、トラちゃんが肩を大きく上下させ息を吐いた。

「終わった。ミサイルは自爆したはずだ。レーダーで確かめてくれ」

 双方の官邸スタッフがお互い自国の軍に連絡を入れ、ミサイル消滅の確認を指示する。そして少し経ってから、ミサイル自爆確認の二つの声が、部屋の中に響き渡った。

 この事件の後、習ちゃんは心からトラちゃんを恐れるようになった。

 こんな人間が強大な権力を手にしているなら、いつ第三次世界大戦が始まってもおかしくない。理屈もはったりも通用しない。国民の被る迷惑も斟酌しない。これはもう、手の付けようがない。流石の習ちゃんも、内心困り果てた。

 当面、意地の張り合いで進むしかない。しかし習ちゃんは、トラちゃんのせいで政治生命を絶たれるかもしれない恐怖を感じ、不穏な心境を沈めるように天を仰いだけれど、不安は増長するばかりだった。

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極秘会談 秋野大地 @akidai

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