暇人四人はゲームで集う―へっぽこ四人娘のゲーム攻略日記

如月射千玉

第1話 問題しかないMMORPG―1

私は、小さな頃からゲームが好きだった。

この世界ではない空想の箱庭なら、私は何にでもなれたから。

ある時は、世界を救う為に魔王と戦う伝説の勇者。

ある時は、単身世界をさすらう旅人。

ある時は、荒廃した世界で銃撃戦を繰り広げるガンマン。

ある時は、ライバルを蹴散らしコースを疾走するレーサー。

現実にはできっこない、なれっこない彼ら彼女らは私には眩しくて。

そんな私にも、楽しい時間を共有する仲間ができた。

しかし、人格のかなり歪んだ彼女らに私は毎日辟易させられている。

これは、私と奇人変人揃いの彼女たちが織り成す、ただの日常である。



カーソルを動かして空を見上げると、ちかちかと瞬く星が見えた。

ちらっと画面端の時間を見る。

集合時間が迫っていることに気付き、必死でマウスを動かす。

その動作と連動し、異世界の私―アバターネーム《アオイ》が宵闇の街を疾駆する。

そう。この世界は現実ではない。

どこか国内のサーバと私のPCの中に存在する箱庭の世界、

その名も《フリーダム・オンライン》、略称FRO

このオンラインゲーム内における最大都市、《ミューズ》の街には雑踏が広がる。

パーティーを組んで集まっているプレイヤーもいれば、一人どこかへ駆け出す者もいた。

即ち、現実世界の縮図とも言えよう異世界で、私は走っている。

迷路のように入り組んだ煉瓦建築を一瞥し再度時計を見た。

時間に遅れたら何を言われるか解ったもんじゃない。

他のプレイヤーをすり抜け、街の西部。

流星のような輝きを放つネオン街は、人気が失われて久しい。

何故人気が無いのかは私の口からは話したくない。

そのネオン街の最深部に、そこはある。

ミューズ中央区の豪奢な白亜の宮殿などとは雲泥の差のボロっちい建物。

ゲームを初めて1ヶ月で買えるくらいの値段と言えば納得して頂けるだろうか。

カーソルをクリックして扉を開ける。

僅かなラグの後、画面が切り替わった。

まず目につくのは毛足の長い絨毯。

おおよそこのボロ屋に釣り合わない代物で、値段も当然論外だ。

因みに、これを買って置いた奴曰く、

『全身防具と武器をオーダーメイドで揃えても釣りがくる』

そんな物に金使ってんじゃねえよ馬鹿、と突っ込むくらい許して欲しい。

しかもその馬鹿は後に金欠になり、私は一昼夜狩りに付き合わされた。

思い出したくもない記憶を振り払い、少し歩く。

ちっ、と舌打ちをした。

私が最後だったからで、後で金品或いは素材を要求されると悟ったが故に。


「遅れてごめん」

『遅いぞアオイ!何分待たせてるんだ』

私の聴覚に忌々しいあの女の声が届く。

「そういうヒイラギはいつ来たのさ」

『驚くなよ?3分前だ』

驚かない。むしろ呆れた。

いや、ことによると性格の悪い奴のことだ、全力疾走する私を扉の前で嘲笑っていたかも。


『わたしは15分前には来ていたぞ、キリも一緒にな』

「それは申し訳ないね、カエデ」

次に話しかけてきたのは、低い声。

ともすると男か、と間違えるくらいだけど実際は女だ。リアル参照。

彼女はカエデ。私たちのパーティーのリーダーだ。

魔女らしいローブとトンガリ帽子を着た魔女風女。


『あたしを忘れないで下さいよ!』

「いやあんた忘れたくても忘れられないから」

で、何故敬語なのか不明な女がキリ。別に年下でもない。同学年である。リアル参照。

騎士らしく鎧と兜で武装している。


とまあ、こいつらと私を含めた四人が、パーティーメンバーだ。

ん?ヒイラギの説明が無い?あいつは良いや。青髪ロングの変人女。以上。


『良し。メンバーが揃ったところで。今日はどこに狩りに行こうか』

リーダーであるカエデが全員を見回して言う。

その流麗な声に誘われて、一先ず考え込む。

時間が短く効率の良いクエストを回すのが一番だが、特に当てもなく。


『はーい!ヒイラギちゃんに意見があるよー』

無視して良いっすか。

良くない?はあ。


『wiki見たらね、カエル狩りが効率良いんだって』

『ほう、カエルとは』

相槌を打ったのはキリ。どうでもいいがこいつ聞き上手だよな。


『砂漠地帯のカエル。それなりに弱くて経験値ウマウマ』

『うむ。一考の価値有りだな』

『では早速参りましょう!』

何か盛り上がってるのに水を差したくはないんだけど、ちょっと待て。

私たちのパーティーは……………。

仕方ない。私がカバーするか。



砂漠地帯。常に砂嵐の吹き荒れる場所。

どこを見ても砂と岩のみ。

リスクと効率の差からプレイヤーたちからは敬遠され、幸い人がいない。

地中に潜るムカデを回避し、カエルまで辿り着いた。

私たちを優に上回る体躯。砂漠に適応した乾燥した皮膚。

そもそも人間よりデカイって何食ってんだとは言ってはいけない。


「よし、バリア張るよー」

魔法をクリックして、発動。

パーティーメンバーのHPバーの横にアイコンが点滅する。

一定時間天候ダメージを無効化する《アンチウェザーバリア》。

この砂漠地帯では1分に一度ダメージを喰らうので必須の魔法。


「いつでも回復するから安心して死んでこい」

『おう了解……って誰が死ぬか!私は生きるぞ!オゴッ』

言わんこっちゃない。

カエルの前で堂々とノリツッコミを披露したヒイラギが一撃で天に召される。

カエルの攻撃力が高いのではなく、ヒイラギの防御力が紙なだけだ。

確かあいつステータスをATK極振りだって自慢してたな。

まあそれを見越していた私は即座に蘇生させる。


『ハハハ!!何度でも蘇るさ!アバッ』

あ、また死んだ。馬鹿じゃないの。

ぶっちゃけた話バフを掛け忘れた私のせいでもあるけど、それには目を瞑る。

しかも蘇生魔法の再使用可能になるまでの時間が長いので、不味いな。


「カエデかキリ!あの馬鹿を蘇生するまでの時間を稼いで!!」

誰が馬鹿だーとヘッドフォンから苦情が漏れるけど無視。

幽霊が何か言っているだけだろう?


『―了解』

『解りました』

カエルに向かって突進したのは魔女っ娘………カエデ。

両腕に装着した拳甲から紅の光を迸らせ、カエルの胴体にパンチを叩き込む。

格闘術スキル《シングルパンチ》。

ライトエフェクトが散り、カエルのHPが2割ほど吹き飛ぶ。

カエルの反撃を危なげなく回避し、今度は蹴り。

格闘術スキル《スマッシュキック》。

再びカエルの命を2割削る。

『喰らえ、我が魔法!』

朗々たる声で叫んだのが騎士装備の女、キリ。

ちなみにヘッドフォン越しで叫ばれるとかなりうるさい。

魔法陣から火炎が現れ、カエルを焼いていく。

魔法スキル《ファイアバレット》。

HP1割減。


『せあっ』

アオイのドロップキックがカエルの生命を絶つ。

ヒイラギが蘇生するまでもなく戦闘終了。

カエルが破片になって崩れ去る。

カエルの絶命を見届けて、私は一息ついた。

この変人どもに囲まれている私に苦労人の称号がつくはずなんだけどどうなのか?

神様は見ていないのかなあ。

…………などと現実逃避気味に考えているけど、ちょっと待て。

何で魔女が拳でカエルぶん殴ってるの?

何で騎士が魔法使ってるの?

普通魔女って言ったらMAT(魔法攻撃力)上げて魔法ブッパするのが仕事なはずで、

何でこの馬鹿はATK(攻撃力)上げて拳でぶん殴っているのでしょーか。

騎士だってDEF(防御力)やらVIT(体力)上げて壁やるのが普通なんじゃないの?

下手したら私より紙装甲の可能性すらある。


『ふっ。我が拳が火を吹いたな』

『魔法もですよ?』


おいちょっと待て馬鹿ども。何無邪気に喜んでるの?

自分たちの計画性の無さを自覚するべきじゃないの、ていうかそもそもステータス振り直せよ、いやいっそ二度とネトゲなんざやるんじゃない。

お前たちは知っているのか?影で他のプレイヤーから何と呼ばれているか。

『最強パーティー(笑)』

『イロモノ軍団』

『ネタ極振り』

などと好き勝手呼ばれているんだよ?まあ知らんけど。


『やはりこのパーティーの実力はなかなかだな。よし、ボス倒しに行こうではないか』

「え、ちょっと待って。無理でしょう」

『チキンだなーアオイちゃんは。大丈夫大丈夫。当たって砕けろだよ』

「カエルに一撃で砕かれた奴に言われたくはないよヒイラギ」

『いざ出発です!』


仕方ない。こうなったら当たって砕けろだ。

私がカバーすれば問題ないはず。


で、砂漠地帯のボス。

さっき殺ったカエルの更にでけえバージョンのカエルの王が私たちの前に立ちはだかる。

固有名、《デザートトード・キング》。


『準備は良いか!いざ突撃』

…………するより速く、カエルが口を開ける。

紫色の粘液が私たちを包み―そして―


『『『「ウギャー」』』』

一撃で壊滅しましたとさ。ちゃんちゃん。

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