第4話

「そんなことがありうるのか?」


「例がないわけじゃない。ある四十台前半にしか見えない男が結婚した。しかしすぐに死んでしまったそうだ。死因は老衰。なんと四十台前半にしか見えなかった男の実年齢は、九十歳を超えていたんだ。その男の口癖は「俺はいつまでも元気で若い」だったそうだ」


「そんなことが……」


「思い込みの力だ。だから彼女は十年経ってもその見た目は全く年をとらない」


橋谷が何も言わないでいると、安達が言った。


「そういうことだ。こんなものでいいか」


「そうすると、彼女は何年経ってもあのままなのか?」


「八十や九十になっても二十代前半に見えるなんてことはないだろうが、この十年間全く見た目が変わらなかったことを思えば、実年齢よりも何十歳も若く見えることだろう。なにせ彼女は、2020年の夏で時間が止まっているのだから」


「そうか」


「そういうことだよ。それじゃあな」


「ああ、ありがとう」


橋谷はそのまま風呂に入った。


そして思った。


何年経ってもずっと2020年の夏を生きている女。


そんな女の心の内とはいったいどんなものなのだろうか。


そしてその女は果たして幸せなのだろうか。


橋谷は彼女の顔を思い浮かべてみた。


その顔は、これ以上ないくらいの幸せで満ちあふれているのだ。



       終

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時を止めた女 ツヨシ @kunkunkonkon

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