第3話

橋谷が家で猫の相手をしていると、連絡があった。


安達からだ。


「おい。待っていたぞ。で、どんなあんばいだ?」


「いろいろと聞いたよ」


「で、彼女の秘密がわかったのか?」


「わかった」


「そうか。それはどんな秘密だ?」


「順を追って説明しよう。彼女がいつも幸せに満ちた顔をしていると言っていたな。それは愛する人との結婚を控えているからだ」


「結婚? 十年前からあの表情だが、ずっと一人暮らしだぞ」


「それはそうだろう。彼女の結婚相手は2020年の夏、つまり十年前に事故で亡くなっている」


「えっ? 十年前に結婚相手が亡くなっているって。意味がわからん」


「結婚相手が亡くなったことは、私が後から調べたことだ。彼女は今でもその男と結婚式をあげるつもりでいる」


「まさか結婚相手が死んだことを知らないとか」


「いや、知っている。だからああなった」


「……やっぱり意味がわからん」


「結婚相手が死んで、よほどショックだったのだろう。だから彼女は時を止めたんだ」


「時を止めた?」


「そう、時を止めた。彼女はこの十年間、結婚式の前で結婚相手がまだ生きている時の時間をずっと繰り返しているんだ」


「それはどういうことだ?」


「だから言ったろう。結婚相手が死んだことで強烈な精神的なショックを受けた。それでそのことをあまりにも強く否定したがために、彼女の意識と記憶はその前の八月で止まってしまったんだ。結婚式は九月の予定だった。意識を二十一歳で止めたがために、この十年間見た目の上では全く年をとっていない」

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